野州精機(川崎市中原区上小田中)が、精密切削加工の技術力を磨き続けている。小さなシャフトの内径加工や、金属挽物(ひきもの)加工などを工場内にあるNC旋盤のみでこなす。特に「偏心ピン」「偏心シャフト」と呼ばれる、ピンやシャフトの中心からずれた位置に軸を加工する部品を得意とする。付加価値が高い技術を習得したきっかけはコロナ禍。目先の受注が次々と減っていく中、同社はむしろ好機と捉え、空いた時間を利用し、工作機械の性能をフル活用するための研究に明け暮れた。
コロナ禍きっかけに技術力磨く
■「大規模な零細企業」
従業員数8人のうち技術者が3人いる町工場。それでも、工場内にはNC旋盤が所狭しと置かれており、その数は11台。飯田良一社長は「当社は大規模な零細企業です」と例える。
工場は24時間稼働。少量多品種から中ロット品まで、さまざまなニーズに対応する。精密機械や工作機械、自動車の外装品関係からの受注が多いという。
これまでの歴史の中で、会社を変える転機がいくつかあった。最初は2000年代初頭の中国進出ブーム。当時の売上高の大半を依存していた大手製造業が中国への生産シフトをすることになり、同社は1社依存体質からの脱却を迫られた。
次の転機はコロナ禍。新型コロナウイルス感染拡大による経済活動の停滞で、大手企業による多くの開発案件が止まったことは記憶に新しい。同社も大きな影響を受けた。「一時期は売り上げが半分以下になりました」(飯田社長)とするほどだった。
とはいえ、アフターコロナ時代を見据え、自社を変革させるチャンスと捉えた。「性能が優れた工作機械をそろえていますが、コロナ前は忙しく、使いこなすための研究ができていませんでした。だからその研究に時間を費やしました」
■1次加工だけで完結
現在、小型シャフトの内側部分の加工を、NC旋盤だけでやってのける。「ランピング加工」と呼ばれる技術で、シャフト内側を少しずつ彫り込んで加工するものだ。従来、こうした加工は放電加工が向くとされていたが、それだとコストが大幅に高くなってしまう。
一方で「ヘリカル加工」の腕も磨いた。同加工は、X・Y・Zの3軸を同時に動かしながら複雑な形状に仕上げるもので、同社では複数の中心軸を持つ偏心シャフトなどに仕上げている。年々進化する事務機器に組み込まれる部品などへのニーズを見込む。
同社がこだわるのは「1次加工」内での完結。どんな複雑形状の部品でも、2次、3次加工する手間をかけていたら、それだけ人手がかかり、夜間に無人運転をして生産性を高める利点もなくなってしまう。当然ながら加工単価も上がる。
「NC旋盤だけでできるヘリカルやランピング加工を普及させていくことで、これまで加工コストの問題で諦めていたお客さんにとっても、選択肢が広がるはずです」と語っており、今後は積極的な用途開拓を進めていく。