信濃(愛川町)は、失われつつある職人技術を継承する塗装工場だ。地域では珍しく、繊維強化プラスチック(FRP)やメトン樹脂、カーボンファイバーなど、塗装が難しいとされる分野に特化。すべて職人による“手塗り”で、自動化やロボット化とは一線を画し、他社との差別化につなげている。

手塗り技術を受け継ぐ

取引先はトラックや建設機械業界。バンパーや導風板など、比較的大型部品を扱っている。FRPなどの塗装で大切になるのが前処理。バリ取りから始まり、塗装後に巣穴や凹凸が見られないようにする処理が重要になるという。

塗装後の検品では、目で確かめ、触感までも働かせる。わずかな巣穴や汚れがあれば、決して出荷せず、ベテラン職人が補修するか再塗装する。宇野女英資部長は「職人は妥協したら終わりです」と語る。

そうした徹底ぶりから、2000年の創業以来、市場で不良品を出したことが一度もなく、取引先からのクレームもほとんどないという。

現在、従業員数16人中14人を職人が占める。技術レベルを「見える化」し、熟練度を1 ~ 8段階に設定、作業内容も振り分けている。初心者は「1」から入り、「8 」になると指導者レベルだ。「樹脂の塗装は難しく、それだけに身に付けるべき技術も多いです」(宇野女部長)。年1回程度、ステップアップできる機会を設けて育成を図っている。

この先、自動車やトラックの電動化が進んだとしても、外装材の塗装分野は底堅いとみる。むしろトラックは年々デザイン性が上がっているため、「複雑な形状の外装部品塗装が多いので、自動化できない分野」(同)になりつつあり、職人技の需要はますます高くなるという。

(2021年9月号掲載)