ネームプレートは企業の「顔」。創業100年を迎える末吉ネームプレート製作所(川崎市多摩区中野島)は、ありとあらゆるネームプレートを製作する。金属ネームプレート(銘板)や彫刻、シール印刷、シルク印刷...。その守備範囲は実に広く、ネームプレートなら不得意分野はないといっても過言ではない。戦前の戦闘機「零(ゼロ)戦」に搭載する計器類の銘板に始まり、時代とともに技術革新を繰り返してきた。そして今では「総合ネームプレートメーカー」となった。伝統技術を受け継ぎながらも、生産の自動化や業務のDX化にいち早く着手。5月にはそれらの集大成ともいえる新工場を完成させた。
時代とともに変革
■金属銘板からシールまで
一概に「ネームプレート」と言っても、その種類は無数にある。産業用製品の識別や注意喚起などを表示する銘板をはじめ、信号機の制御盤、表示ボタン、公共交通機関の車両内の表示板...。日常生活で見ないことがないほど、あらゆる製品に使われている。
ただ、それぞれのネームプレートにも違いがある。材質が金属なのかプラスチックなのか、シールなのか。使用目的によって変えていかなければならない。
無論、製法も全く異なる。通常は各分野で専門業者が存在するが、同社は「総合」を強みにしており、ニーズに応じてオールラウンドで対応。提案もできる。「時代とともに、扱える技術の幅を広げていきました」と、沼上昌範社長は説明する。
■エッチングの自動化
どんな製品にもネームプレートは使われる。同社が生産するネームプレートのアイテム数は年間数万点、常時400社超の取引先を抱える。ただ、いわゆる2次、3次下請けではなく、メーカーと直取引することも少なくない。中でも戦前から続く金属銘板製作は今も伸びている事業の一つだ。
金属銘板には「エッチング」と呼ばれる技術が使われる。化学薬品の腐食作用を利用し、金属の表面を腐食させる加工法だ。金属板に直接文字を彫ったり、反対に文字や図柄を浮かび上がらせたりすることもできる。
同社の大きな特徴が、エッチング工程の自動化を進めていること。エッチング加工では「フィルム作成」から「感光剤塗布」「露光」「現像」といった工程が必要になるが、これを省略。紫外線硬化式の印刷装置を使って、対象物に直接印刷する工程を開発。生産効率を大幅に高めた。
■AI活用も視野
「以前、エッチングは15年以上やらないと一人前になれないと言われていました。職人がいないから廃業する企業もありますが、他社で職人がやるものを、当社ではパートでもできるようにしていきます」(沼上社長)と語る。
その一環として開発中なのがAIを駆使した自動化プログラム。エッチングでは、専用装置に対し、材料の種類や、掘る深さ、薬品の濃度などの数値を制御する必要がある。経験と勘も必要だ。
だが、同社には創業以来100年間培ってきた加工データベースが存在する。そうしたデータを活用し、AIが生産品目ごとの最適値を制御することで、自動化ラインができる。夜間無人運転も可能になり、競争力が飛躍的に高まる。
DX化にも余念がない。現在、職場ではタブレット端末を全社員に支給。生産管理システムとも連動しており、生産品目ごとの進ちょく状況がつかめる。そのため、営業マンは客先で納期が即答できるという。
創業から100年。伝統を継承しつつ、時代とともに変化を繰り返しながら成長する同社。“次世代型”の総合ネームプレートメーカーへの道を歩む。