鉄と銅。性質が全く異なる二つ物質を融合させたハイブリッド合金「銅鉄合金」を普及させているベンチャー企業がある。MTA合金(川崎市川崎区東田町)は、世界で初めて、鉄と銅を融合させた新合金の開発に成功した。鉄と銅は、融点や分子構造が異なるため、これまでは合金化が不可能とされていた。しかし、その常識を覆した。金型材料や精密電子部品、自動車部品…。非鉄金属価格が高騰する中、国内外の企業から熱い視線が注がれている。
MTA合金、原材料の価格高騰背景に需要増
■定説覆す製法
鉄の特徴は、硬さと強度。銅は熱や電気をよく通す性質がある。同社によると、これらの特徴を持ち合わせた新合金をつくろうと、戦前も米国や欧州、日本でも研究が進められていたという。
戦後は米オーリン社が銅に鉄を2.5%混ぜた「鉄入り銅=C1940」の量産化に成功。当時の産業界を大いに沸かせた。しかし、それ以上混ぜることは不可能だった。柴田徹郎社長は「そもそも(鉄と銅は)性質があまりにも違うため、融合させるには『野球ボールにバスケットボールを入れるくらい難しい』と言われてきました」と説明する。
こうした中、同社は新しい溶解法で鉄と銅の合金化に成功。量産化にも対応する製法を生み出した。
2016年7月、鉄90%に対し銅を10%混ぜた新合金「MTA9100」を試作。以来、韓国と欧州で物質特許、国内では製法特許を取得した。
そして大手電子部品や金型製造企業などからの試作品依頼と、数限りない検証テストを重ねながら、新合金の実用化を進めきた。20年8月には韓国・槐山(グエサン)に新合金の製造工場も稼働させた。
このハイブリッド合金の製造技術のもう一つの大きな特徴は、鉄と銅の配合比率を自由自在にブレンドできることだ。導電性や熱伝導性を上げたければ、銅の配合を高め、より強度を出したければ鉄の配合を高める。用途に応じ、配合を変えながらオリジナル合金が製作できる。
■ベリリウム銅の代替に
同社は5月、試作した「MTA9100」を発展させ、硬度と熱伝導率をさらに高めた「MTA-FeX」を本格発売。これは、ベリリウム銅の代替材料になるのでは、と関係者から注目されている。
ベリリウム銅は、銅合金の中でも最高の強度を持ちつつ、熱伝導が優れており、加工性もよいという三拍子そろった材料。そのため、電極や金型、精密機械部品、コネクターなど、あらゆる産業に広く使われる。ただ、最近は入手困難になりつつあり、価格も高騰している。
「MTA-FeX」は、ベリリウム銅と比べ、2割程度安価ながらも、同等の性能があるという。「機能的に遜色がありません」と柴田社長は太鼓判を押す。
その証拠として、硬度を示すHRC(ロックウェル硬さ)は30以上、熱伝導率は同程度の1メートル毎ケルビン当たり約90ワット。熱処理後もほぼ変わらない熱伝導率を持っている。
価格は1キロ当たり4000円程度。最終的には同1800~2000円程度を目指しており、現在は大手空調メーカーと検証を進めている。
また「硬くて熱伝導にも優れている」という特徴から、プラスチック成形の金型の材料や電極などへの活用を期待。すでに多数の引き合いが来ているという。