慶応義塾大学と日本大学発のスタートアップ、Vetanic(ベタニック、藤沢市)は、動物用の再生医療等製品の販売を目指す。世界で初めて、イヌの細胞から疾病の治療に用いる「臨床応用」ができるiPS細胞を、安全かつ効率よく作る技術を開発。これをベースに関連製品の実用化を進める。動物の再生医療は、倫理的な課題があったり、一部の動物病院に限られたりしていたが、製品が登場すれば身近になることが期待できるという。

ベタニック、イヌのiPS細胞を活用

同社の技術は、独自に作製したイヌのiPS細胞を、「間葉系幹細胞」と呼ばれる細胞に分化させる。この細胞は体にもともと備わっている幹細胞(体性幹細胞)の一つで、増殖能が高く、神経、脂肪、骨、血管などに分化できる細胞。例えば「炎症性腸症」などのような炎症性の疾患を持つ犬に投与すると、周囲の細胞の炎症を抑え組織を修復する特徴があるという。

こうして作った「イヌiPS細胞由来の間葉系幹細胞」を再生医療等製品に適用していく。

現在の動物再生医療でも「間葉系幹細胞」が使われている。ただ、ドナーとなる健康なイヌの皮下脂肪から採取するため、動物の身体的負担が懸念されている。動物病院も専用設備が必要で、細胞を増やすのに時間がかかる。結果的として治療が高額になりやすく、普及には課題があるという。

■従来の懸念を払しょく

その点、再生医療等製品が普及すれば、従来の懸念材料を払しょく。「治療を諦めていた犬を一匹でも多く助けられます」(望月昭典社長)と言う。2024年には国内での産業実装化を視野に入れる。

同社によると、国内でペットとして飼われている犬は15歳未満の子どもの数をはるかに超える。「家族の一員」として人間と同様の治療を望む声も高まっているという。

再生医療も例外ではないため、今後の市場拡大は間違いなく「他の動物にも使える製品も開発していきたいです」(枝村一弥社外取締役・技術ファウンダー=日本大学教授)としている。

なお、開発などにかかる資金1億5000万は調達済み。技術シーズの社会実装化助成金「はまぎん財団Frontiers」の大賞にも選ばれた。

(2021年12月号掲載)