金属加工・樹脂加工・その他加工

製造業、成長に王道なし めっき職人集団の百年企業

「現代の名工」が率いる旭産業(横浜市金沢区福浦)は、1919(大正8)年の創業以来、めっき加工一筋で成長を遂げている。取引先は約800社を擁する。ただ、特別なことをしているわけではない。「当たり前のことを当たり前にやり続ける」(小杉亮社長)と、品質と納期に絶対的なこだわりがある。自動化にも踏み込まず、付加価値が高い手作業を重視。そのため、社員一人一人の技能向上に力を入れ、半数近くの社員が「1級めっき技能士」の国家資格を持つ。製造業の成長に“王道”はなく、職人集団を形成することで長寿企業の道を歩む。

品質と納期にこだわり

「総合めっき加工」を標ぼう。鉄・銀・銅やアルミニウム、ステンレスなど、さまざまな素材に対応。ホチキスの針のような超微細なものから、2トン級の巨大部品のめっき加工までこなす。

少量多品種に特化。それも職人による手作業がメインだ。「自動化すれば“量”を競うことになり、値下げ要求もされます。だからこそ、当社は参入しません。神奈川でも最高単価を目指す企業を目指しています」とキッパリ。

その分、当たり前のように特急注文に応じ、しかも高品質を絶えず提供し続けることに力点を置く。「品質を低下させず、納期を守っていればお客さんは逃げません」との理由からだ。

また、「受注単価はお客さんではなく当社が設定します。合わなければ別の会社に投げてくださいと断っています」とも。こうした姿勢を長く続けたことで、現在の収益構造になった。

社員の半数が技能士の資格を保有

「現代の名工」でもある小杉社長を筆頭に、約30人いる社員のうち15人が技能士の資格を持つ。営業であれ事務職であれ、職種を問わず資格取得を奨励。そして業界団体主催の全国技能コンクールにも積極的に参加させる。

「資格はもちろん、コンクールに出場することで本人自身も気づかないうちに技能が上がっています」という。

めっきのエキスパートを増やしたことで、他社のように品質検査部を設ける必要がなくなった。同社では、まず営業が受け取り時にチェックを行い、その後、工程ごとの担当者が品質をチェックするという仕組みにしている。

一方、同社の場合、取引先1社における売上高比率を「3%以下」に設定している。

その訳について小杉社長は「会社を守るためです」と説明する。「どんなによい取引先であっても、10年後は分かりません。それよりも、口コミや紹介で新規を増やした方が、極端な成長こそないですが経営が長く安定します」

勤務時間は午前8時〜午後5時まで。残業もほとんどなく、土日祝日は完全休み。残業で少しでも稼ぎたい社員が「早出」し、全員の出社前に工場全体の段取りを済ませる。そうすれば、工場全体の作業効率がアップする。「全員が同じ時間に終業できる仕組みにすればよいのです」と語る。働きやすい環境にすることで定着や社員紹介による人材獲得にもつなげている。

取材メモ

「アジアの中でも日本のめっき技術は20~30年先を進んでいます。設備は同じでも日本と外国では何かが違うんです」と小杉社長。ものづくり産業の国際競争力低下が叫ばれて久しい中でも「日本の表面処理技術は世界で戦えます」と胸を張る。近年、デジタルばかり注目されているが、同社ではデジタルにはできないアナログの領域を徹底して追求することで、かえって差別化につなげている。

(2024年6月号掲載)