建物に命を吹き込む─。会津電業(横浜市保土ヶ谷区星川)が主力とする電気工事業を例えると、こう表現できる。ビルや工場にとって“命”ともいえる電気設備を一手に担う企業。同社の場合、慢性的に人手不足が続く建設業界にありながらも、若い人材が続々と入社する。重視するのは、人への投資。中小企業としては珍しく、自社で研修センターを持っており、経験ゼロの新卒から技術者、有資格者をシステマティックに育成する仕組みを確立する。また、業界では珍しい完全週休2日制や残業チェック制度も導入しており、高い定着率を誇る。
独自戦略で人材確保し教育に注力
1970(昭和45)年に横浜市内で創業。県内を中心にオフィスビルや商業 施設、スタジアム、学校、病院などの電気設備を手掛ける。
モットーは「その工事なんとかします」。お客さんが困っている限り、原則として断ることはないという。
「どんな内容であっても『今はできないけれど、明日なら対応できます』とか、予算感では厳しいなら『この金額ならできるようになります』など、提示できる解決策はあります。最初から『できない』と言ってしまえばそれまでです」と、菊地憲幸社長は力説する。
こうしたスタンスが実を結び、年間600件の工事をこなす。その内訳も、数千円から数億円規模の大規模工事まで、多種多様だ。
42人いる社員の平均年齢は30代と若い。中途ではなく新卒に一本化しているのが特徴だ。しかも、社内では大卒の文系出身者が目立つ。
電気工事の仕事は、資格が求められ、知識と技術が問われる。ただ、同社では、多くの中小企業にありがちな「見て覚えろ」とする徒弟制度的な教育は一切やらない。「昔は『背中を見て覚えろ』でしたが、今の若い世代には通用しません。でも、ちゃんと教えれば、しっかりと仕事をしてくれます」とし、教育システムの必要性を説く。
2017年11月には新人向けの研修センター「すだち」を市内に建設。新卒は入社後、同センターで2カ月間みっちり学ぶ。ビジネスマナーから始まり、電気工事の基礎、第二種電気工事士試験対策...。幅広いスキルを習得していく。
「教育はできるだけ内製化しています。先輩社員が講師になりますので、教育を受ける側も、資格試験では絶対に落ちたくないという気持ちが芽生えます」
立派な研修センターを自前で持つケースは中小企業としては珍しい。菊地社長は「確かに、すぐには返ってきませんが、一人前になってくれる期間が少しでも早まれば、その分、相乗効果も出てきます」と明かす。
電気工事業と言うと、ビルや施設、工場向けのイメージが強い中で、新事業にも乗り出している。
「住まいのおたすけ隊」として、市内や周辺地域の一般家庭から、電気に関するSOSを受け付けている。もともと、島根電工(松江市)がフランチャイズ(FC)方式で展開するサービスに加入した経緯がある。
同サービスでは、電球を取り替えたり、電気スイッチやコンセントを移動したり、古くなったエアコンを交換したりと、あらゆる困りごとに対応。高齢者世帯での利用が多いという。
「昔は近くの商店街には必ず、町の電気屋さんがありました。しかし、大手量販店の影響で減ってしまっています。だ から私たちが代わりになります」と話しており、超高齢化社会を背景に、さらなる需要があるとみている。
15年10月には市から「横浜型地域貢献企業・最上位認定」を受けるなど、地域活動にも注力。今後も地域になくてはならない存在を目指している。