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知恵次第、小さくても世界一

高級バイク「ハーレーダビッドソン」のチューニングだけで、年間約400台やってのける企業がある。横浜市金沢区幸浦に実店舗を構えるパインバレーだ。従業員数15人の企業ながらも、チューニング台数は世界一とされ、しかも、時代の波に乗って、パーツなどのインターネット通販を主力事業に成長させる。「大きな設備投資をしなくても、知恵次第でトップになれる」ということを具現化させた企業でもある。その手法は他業種であっても参考になりそうだ。

パインバレー、独自手法でニッチトップに

■ほぼ文無しから一転

同社を率いる松谷昇一社長の前職はコンビニエンスストアのオーナー。しかし、家庭の事情で離れることになり、14年前、40歳を過ぎたときに「ほとんど無一文の状態」(松谷社長)で、アパートの一室で創業した。趣味はハーレー。これに関連したビジネスで生計を立てようとした。

ハーレーの本場・米国では、日本のような車検制度がない。そのため、現地の愛好家たちは新車購入時から純正マフラーを捨て、好みの音が出るマフラーを装着する。販売店では廃棄される純正マフラーが積み上がっていた。松谷社長は現地から中古純正マフラーを仕入れ、ヤフーオークションで販売。これがヒットし、1年後には移転。パーツ類のネット販売を本格化させた。

当時、まだ普及していなかったYouTubeをフル活用。販売するパーツの比較動画を紹介することで、実物や音が確認できないネット販売の弱点を克服した。その翌年には大規模ショッピングセンター内に実店舗を出すまでに急成長した。

ハーレーの整備を始めるに当たり、まず打ち出したのが料金体系の見える化。従来の整備工場はチューニングなどを頼んでも、最終的にいくらになるのか、不明確なことが多く、納期も曖昧だったからだ。「最初から価格が分かっていると、お客さんは納得します。商談も早いです」と、松谷社長は明かす。

■社員へのインセンティブ充実

現在、整備のほか、パーツや関連グッズなど計5000点ほどをネット販売する。それを売るために、社員一人一人が同社SNS内でページを持っており、商品を頻繁に紹介している。会社全体のブログPV数は月100万。「ブログが充実していれば、キーワード検索時に何らかが必ずヒットします。続けることが財産です」と松谷社長は語る。

ただ、ブログを強制していても続かない。そのため、社員には自分のページのアクセス数に応じ、インセンティブを支払っている。これを“社内副業”と位置付け、希望者が勤務時間外にやっている。また、社員が商品を提案し、それを売ってきたら粗利の一部も還元。「インセンティブ制度をしっかりすることで、社員はより頑張れます」(松谷社長)。

■開発は2番手戦略、整備は分業制

オイルやカムなど、オリジナル商品も30種類ほどある。ゼロから開発するリスクは負わず、他社が先行発売したものを研究し、グレードやコスト競争力を上げた同様の商品を出す“2番手戦略”を採用する。

一方、年間400台こなすインジェクションチューニングを可能にするのが、スペシャリストによる分業制。各工程に専門家を配置し、流れ作業にしている。属人化を防ぐために、担当は定期的にローテーションで回す。

松谷社長は「コロナ禍で3密も回避できる理由もあり、バイクを趣味に持つ人たちが増えています」と話しており、業績もうなぎ上りという。たった一人で始めたハーレーのビジネス。知恵を絞ることでニッチトップを実現している。

(2022年1月号掲載)