「炭」一筋で約90年。炭の専門商社、増田屋(東京都大田区南久が原)は、古くから日本人に親しまれてきた炭が本来持っている機能性に目を向け、あらゆる業界向けに用途開拓を進めている。インテリアや生活雑貨、建築材...。専門商社の枠を飛び越え、ニッチな自社商品も次々と開発、炭の新需要を掘り起こしている。本社敷地内には、炭商品のショールーム「炭ギャラリー」も併設。人と環境にやさしい、あらゆる炭の情報を発信している。
優れた機能性に着目
1935(昭和10)年創業の老舗。増田剛社長は3代目に当たる。
創業当時は産業用の燃料として炭の卸売りをメインにしていたが、時代とともにエネルギー源のシフトが進み、頼みだった市場が徐々に縮小。時代の変化に合わせ事業の再構築を繰り返してきたという。
同社はいわば「炭の専門家」。長い歴史の中で培ってきた、炭に関する卓越した知見がある。そして、それが最大の強みでもある。そのため、先代・増田幹雄会長の時代から、炭の持っている機能性に着目した関連ビジネスを展開している。
その一つが、長きにわたり販売する代表的商品の「茶道用木炭」だ。茶道においては、お湯を沸かすために炭を使う「炭手前」といった作法がある。茶道という伝統文化を発展させるべく、全国の茶道家や茶道教室に向けて通信販売などを展開、広く顧客を持つようになった。
現在の増田社長になってからも、その流れは止まらない。専門商社という“殻”を破り、炭関連商品のメーカーとして、インテリア製品や生活雑貨、調湿材、炭シートなど、数多くの自社商品の開発に着手している。
こだわるのはニッチ戦略。同社の場合、自社商品がヒットすると、大手企業が参入して価格競争に巻き込まれるリスクがあることを想定。無理な競争はせず、次なる新商品に乗り出している。「炭の可能性は無限大です」(増田社長)というように、新商品開発のサイクルは早い。
仕入れた炭を無駄なく活用できるノウハウも強み。例えば、高品質な炭は、茶道用や高級料亭向けに卸し、その他の部分は商品開発に利用。このほか、太い炭は植木鉢に合わせてインテリア雑貨として扱ったり、形が崩れたりしたものは粒や粉末にして生活雑貨向けに加工するなど使い分けている。
「余すところなく活用できるのが炭です」と、増田社長は説明する。
2000年10月には本社敷地内に「炭ギャラリー」をオープンした。炭の優れた機能性を広く知ってもらうために、壁材や天井材といった館内の内装部分にも炭素材が使われた。そして数々の自社商品を展示販売している。
中には、プランター代わりになる「炭花壇」や「炭のヘアケアブラシ」、さらには炭を練り込んだ繊維と光触媒繊維を合わせた「消臭ボディタオル」、「備長炭歯ブラシ」など、海外でも好評というユニーク商品が並んでおり、来館者たちの目を引いている。
今後は、環境対策として注目されている炭の土壌改良材「バイオ炭」への参入も視野に入れる。増田社長は「ニッチな需要を常に探し、絶えず商品開発を続けています。炭の機能性を活用したものづくりの相談も大歓迎です」と意欲的だ。