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月3500杯売れる「かき氷」

小田急線・新百合ヶ丘駅近くの洋菓子店、パティスリーエチエンヌ(川崎市麻生区万福寺)のかき氷は、夏場になると、ひと月3500杯以上売れる。1杯1000円以上する高級かき氷だが、都内の五つ星高級ホテルでペストリー料理長(パティシエのトップ)を務めていた藤本智美・オーナーシェフが編み出した“氷のようなケーキ”だ。ジャンルにとらわれず「自分らしさ」を追求していった結果、唯一無二のスイーツとなり、同店の看板商品になった。

唯一無二のスイーツ開発

2011年8月に藤本シェフが、ペストリースイートアートデザイナーをしていた妻・美弥さんと一緒に立ち上げた店。夏場に限定販売するかき氷は、約20種類を提供する。いずれも、樹の幹でぎりぎりまで熟した旬の完熟果物をふんだんに使用している。

洋菓子とかき氷。異なるジャンルのものだが、藤本シェフはこの二つを融合。見た目も華やかな「洋菓子店ならでは」のかき氷に仕上げた。

■入院が転機に

開発のきっかけは、藤本シェフの入院。がむしゃらに走り続け、開業から3年が過ぎたころ、体調の異変を感じた。ただ、この入院が転機になる。自身と向き合う時間を持つようになり、考えを一変させたという

「今までは有名ホテルというブランド、それに大会で獲得した華々しい受賞歴など、独立しても(過去の)いろいろなことにとらわれていたと気づきました。そうではなく、自分のスタイルで、自分らしく店をやっていこうと思いました」

退院後、藤本シェフは食材探しに奔走。その際に訪れた山梨県の桃農家には、落ちるぎりぎりまで樹の幹で熟した桃があった。しかし、農家の人は「柔らかくなり過ぎたため、市場には出せない」という。その桃をもぎ取り、そのままかぶりついてみると、最高においしかった。

「これまでは『最高』の食材は、いわゆる『最高級』とされるものだと思っていました。が、その概念が変わりました」

こうして、この農家から仕入れたぎりぎりまで樹で熟した桃を丸ごと使い、ピューレも加えたかき氷が生まれた。

■1日30杯から人気商品に

発売後、1日わずか30杯だったかき氷の売り上げは60杯、70杯、100杯…と、あっという間に人気商品となった。ただ、天候による不作のリスクがあり、完熟といってもすべて一律の甘さにはならない。例えば、桃のかき氷でも旬の始まりと終わりでは、酸味と糖度のバランスが変わる。そのため、加工方法を時期により変えるなど、細かな部分にも配慮する。「個店だからできる強みを最大限生かしたいです」と藤本シェフは語る。

今後は、多店舗展開や量産をしていくよりも、農家から直接仕入れた“最高の状態”で作り上げた商品を、より多くの人たちに味わってほしいとしている。

(2022年6月号掲載)