年商3億円弱を稼ぐ、家族経営の牛乳販売店がある。横浜市金沢区大道にある大道武牛乳店は、約3000世帯に配達する「街の牛乳屋さん」だが、扱うのは牛乳や乳製品だけではない。化粧品やハサミ、健康サンダル、失禁パンツ...。ありとあらゆる商品を届ける。斜陽産業にありながらも、定期的に消費者に直接届けられるという「牛乳宅配ビジネス」の利点を生かしたビジネスモデルを構築。加えて、高齢者施設内で開く「移動売店」や、事業再構築補助金を活用した「移動スーパー」も展開。後継者不足やスーパー・コンビニの台頭で低迷する業界に新風を吹き込む。
宅配の強みを生かす独自モデル
■昼間に届けて人材確保
森永乳業の商品を取り扱っており、その数量は全国の販売店でもトップクラス。今や牛乳配達といっても、届けるのは牛乳だけでない。「メインの商品は牛乳から(機能性表示のある)ヨーグルトに変わってきています」と、武勝人取締役は明かす。
配達は昼間のみで、頻度も週1回。「早朝の時間帯となると、スタッフの確保や雇用契約が厳しくなります。だから昼間の配達に切り替えました」と、武彩子社長。
原則、スタッフが商品を直接届けるが、要望によりチルドゆうパックも活用。共働き世帯などが夕方以降の帰宅時に受け取るようにしている。
ユニークなのが商品構成。原則、森永乳業の商品だが、それ以外にも、岐阜や高知、島根産といったご当地牛乳・ヨーグルトを扱っている。スーパー・コンビニには置かれていないものばかりだ。「地方出身者にも喜ばれています」(武取締役)。
■「インフラ」が強み
商品とともにオリジナルのチラシも届ける。化粧品やレインコート、包丁、枝切りバサミなど、生活品から健康グッズまで、常時50~60種類の商品を紹介。注文書を回収したら、翌週か翌々週には届ける仕組みだ。隠れた人気商品は失禁パンツだという。
武社長は「私たち牛乳宅配業は必ずエンドユーザーと顔を合わせます。当店の場合、3000世帯に商品を配達できる“インフラ”があります。届けられるのは牛乳だけではありません」と力説。消費者の声を聞きながらチラシで扱う商品も頻繁に変えている。
コロナ禍前から始めているのが有料老人ホームに出向く「移動売店」。
軽バンに乳製品だけでなく、菓子や総菜、デザートなどを目いっぱい詰め込み、施設内の空きスペースで開催する。普段外出できず、買い物を楽しめない高齢者や職員にも喜ばれているという。現在も毎日、どこかの施設で開いている。
■事業再構築補助金を活用
一方、コロナ禍で始めたのが「移動スーパー」だ。事業再構築補助金を使って専用車両を購入。「セレクトショップ型の移動スーパーです」(武社長)と言う。鮮度がよい横須賀・横浜の地場野菜を中心に、普段はスーパーでは買えない地方の特産品も並べる。これにより、近くにスーパーがあったとしても、買い物客を取り込める。
牛乳配達ビジネスは久しく斜陽産業と言われる。店主たちの高齢化も課題だ。しかし、同社のように「消費者に直接宅配できる」とする強みを最大限に生かしながら、やり方を工夫することで成長を遂げるケースもある。
「私たち販売店にとって『牛乳しかない』という世間の固定観念を覆すことが何よりの課題です」と武社長。今後はECサイトの本格化も狙っており、ビジネスをさらに発展させる考えだ。