電線などの切断に使うケーブルカッターのOEM(相手先ブランドによる生産)供給で国内シェアをほぼ独占する中小企業は、人材戦略も独創的だ。金属加工業の相模螺子(相模原市緑区橋本台)を支える生産現場は女性比率が高く、高齢者や外国人も活躍。家庭を優先できる勤務体系や年3回のボーナス、定年制廃止や生産性向上の試みを重ね、人手不足も克服して成長を続けている。
柔軟な勤務体系で女性定着
ネジ商社として1981年に設立され、2代目の久保田浩章社長になってからは事業領域を拡大している。現在の事業は商社と金属加工、大手工具メーカーに供給するケーブルカッター製造の三本柱だ。
ケーブルカッターは電気工事の必需品。同社で生産する日本製品は、特殊形状に加工した刃物と独自構造を持つ。握力のない人でも直径32ミリのケーブルを簡単に切断できる。海外の工具メーカーも競合品を出しているが、久保田社長は「品質や製品寿命では比較になりません」と胸を張る。
金属加工事業では、協力企業100社とのネットワークを構築。ネジ1本の生産から装置の組み立てまで一括受注できる体制を構築する。
「価格重視なのか、短納期なのか、品質重視なのかも顧客によって異なります」と久保田社長。協力企業ごとに得意技術や保有設備などの情報をまとめた「一覧表」を、社内で作成。顧客からのさまざまな要望に対し、どの協力企業と一緒にやれば対応できるか、早期に判断できるようにしているという。
従業員の定着率向上や人手不足解消は、中小企業に共通の大きな課題。それらを克服するために、働き手の視点に立った職場環境の実現を進める。
従業員が家庭事情に応じ、勤務日や勤務時間などを自由に設定できるようにした。「とにかく家庭優先のルールを設けています。急に休んだとしてもペナルティになりません」
正社員であっても、何らかの理由で出勤日を限定したければ、時間給のパート・アルバイトに変更し、フルタイムで働けるようになれば再び正社員になる道を整えた。特に女性にとって働きやすさにつながり、人材の定着をもたらした。
フレックスな体制でも現場が回るようになっているのは、多能工の育成に注力しているためだ。
入社後に同じ作業をずっと担当させるのではなく、半年から1年ごとにさまざまな作業を経験してもらうことで、多能工の育成につなげる。その結果、1人が休んでも、カバーできる人材が周囲にいる環境が整う。
ボーナスは年3回の支給にした。「年2回支払う分を3回に分けた方が、従業員のモチベーションが違ってきます」。ボーナスのたびに「自分以外で一番頑張っていたのは誰か」を全従業員が投票する。得票数に応じて、特別給も支給する試みだ。
定年制も廃止した。高齢者だけでなく、外国人も活用するダイバーシティ経営を進めている。
設備投資も継続する。現場12人に対し、同社が保有する工作機械は計30台。ケーブルカッターの内製化を進めることに加え、充分な工作機械を備えることで生産効率を高める狙いもある。結果的に残業時間の削減、働き方改革につながるという。