愛川町に「世界でも唯一」とされる木材の精密加工を手掛ける企業がある。日本木質技研は、この道一筋半世紀以上。「木材は工業製品には向かない」という概念を根底から覆そうとしている。その証拠に、コンマ台の精度を当たり前にしながら、精密木材部品を生産。社員数4人ながらも「同業者はいません。世界でも精密木材加工は当社だけだと思います」(秋山忠社長)と胸を張る。脱炭素への機運が高まる中で、再生可能な木材部品に対する需要拡大もにらみ、利点や可能性を訴求している。

日本木質技研、工業製品への採用拡大を訴求

■精度0・05ミリ

金属や樹脂と比べ、木材は湿度などの外部環境によって伸縮しやすく不安定なことから、工業製品には向かないと言われる。しかし、秋山社長はそうした固定概念を強く否定する。「(木は)軽くて長持ち、おまけに加工(切削)スピードが早いのが利点です。樹脂と比べても材料費も大幅に安いです」と説明。工業製品・部品の材料として普及する可能性は十分にあるという。

湿度管理された工場では、計測器や音響機器などの部品を少量多品種生産。その種類は年間1000~2000種類におよぶ。中には精度0・05ミリの部品もある。特別な設備ではなく、樹脂加工業が使用する一般的な工作機械で仕上げている。「木材だから精度が出せないということは、決してありません」とも付け加える。

■問われる経験値と勘

とはいえ、木材の精密加工は、高度なノウハウと熟練技術が不可欠。この道半世紀近くの秋山社長でさえ「いまだに満足していない」という奥深さだ。

というのも、木材は不安定な材料であることに加え、針葉樹や広葉樹など、木の種類、産地によって特性が全く異なる。そのため、刃物で削るにしても、木目の方向やセルロース成分の状態などを理解し、それによって加工方法を調整していく。「経験値と勘がものをいいます。同時に、海外企業には決してマネができない分野です」。

これまで手掛けた木材は、国産や外国産を問わず100種類以上。「とにかく、材料ごとに実際に加工してみたらどうなるかを体得し、その変化を理論的に説明できなければ技術は身に付きません」と、秘けつを明かす。

■技術の用途開拓進める

現在、注力しているのが精密木材部品の用途開拓。例えば、同じ電気製品でも、筐体の一部に木材を使うだけでも変わる。高級感を出したり、ぬくもりを感じてもらったりできる。さらに、木材に難燃剤を浸透させて、燃えにくくすることも可能だ。用途は数限りなくあるという。

消費したら植林する。その過程で二酸化炭素(CO₂)の吸収効果も得られる。脱炭素やSDGs(持続可能な開発目標)に対する関心が世界的に高まる中、日本の小さな町工場が編み出した精密木材加工技術に注目が集まりそうだ。

(2022年4月号掲載)