十割そばを新名物に-。アトラスヒューマンサイエンス(川崎市川崎区砂子)は、京急川崎駅近くに、十割そば・天ぷら・酒「いろり川崎店」をオープンさせた。料亭や割烹で修業を積んだ乳井鉄郎社長が十割そばに挑んだお店で、名物「豚ラー蕎麦(そば)」をはじめ、独創的な「豚味噌おでん」「天ぷら」などが味わえる。つなぎを一切使わない100%そば粉の十割そばは、製造が難しく提供する店は限られる。乳井社長は試行錯誤の末、ようやく納得できる十割そばを完成させた。地元食材とのコラボも視野に入れており、川崎の新名物にしたいと意気込んでいる。

いろり川崎店オープン、ECサイト開設も準備

■事業承継後に業態転換

アトラスヒューマンサイエンスはもともと、乳井社長の父が創業した。といっても、飲食とは関係なく、医療コンサルタントとして海外における政府開発援助(ODA)案件などを手掛けていた。

一方、乳井社長は飲食一筋。都内の料亭や茶懐石料理店などで修業を積み、直近は居酒屋の新規出店なども手伝っていた。飲食の世界に身を置く人間の多くが「将来は独立して店を持ちたい」と思うはず。乳井社長もそんな目標を持っていた。

開業への機が熟した頃、引退する父の会社を継承することにした。「父がせっかく作った会社を残したかったからです。個店が多い飲食業界で、しっかりとした会社組織で経営したかったのも理由です」。

事業継承を機に医療コンサルから飲食店経営に業態転換した。

2019年、第1号店となる「割烹酒場いろり」を東京・蒲田でオープン。同時に、十割そばの「いろり 川崎店」の開店準備も始めた。

なぜ、そばなのか? 乳井社長は「和食全般を一通りやってきましたが、そばだけは別物でした。めちゃくちゃ難しく、だからこそやってみたかった」と明かす。ただ、そばを出す店は数限りなくあるが、「十割」となると激減する。つまり、差別化と参入の余地を見込んだのだ。ちょうど、ある製麺機メーカーが、職人と同じ工程で作れる、そば専用の製麺機を開発したことも背中を押した。

こうして新規オープンした店では製麺所も併設した。とはいえ「製麺機があるからといって、十割そばが作れるわけではありません。そば粉の特性を見極め、その日の温湿度によって、加水量を調整する必要があります」と明かす。乳井社長は日々、そばと向き合い続けている。

■地元食材とのコラボも

同店は製麺所がある強みを生かし、十割そば(ざる)を660円とリーズナブルに提供。ランチ時は幅広でボリューム感がある「平打ち麺」、夜は「細麺」と使い分け、時間帯によってメニューを工夫する。

名物は「豚ラー蕎麦」だが、そば以外にも、味噌もつ煮をベースにおでんの具材を入れた「豚味噌おでん」なども看板商品となっている。

店舗運営とともに着手しているのが十割そばのECサイト展開。「十割そばなら、ギフトとしても喜ばれるはずです」としており、近く楽天やAmazonへの出店を計画。「ECサイトが盛り上がってくれば、再びコロナ禍のような事態で来店客が減ったとしてもカバーできます」。

将来は川崎に根差した店として、地元食材を練り込んだそばなど、コラボメニューも開発していきたいという。

(2023年1月号掲載)