創業から約100年。国内屈指の生産規模を誇る「溶融亜鉛めっき」の専業メーカーが川崎市内にある。日東亜鉛(川崎区水江町)は、あらゆる鉄鋼製品を腐食・さびから守るための溶融亜鉛めっきで、生産量は月6000トン、国内では唯一、大・中・小の三つの生産ライン(釜)を擁している。伝統技術を継承しながらも、時代にマッチした業容に変化することで長寿企業としての地位を築く。それを支えるのは、技術だけではなく、独自の「人事理念」を柱とした理念経営の実践もある。
溶融亜鉛めっきで国内屈指
■インフラ支える存在
前身は東京・月島で1924(大正13)年に創業された「小幡亜鉛鍍金」にさかのぼる。59(昭和34)年に「日東亜鉛鍍金」として川崎に設立。以来、現在の社名に変えながら、溶融亜鉛めっきの技術を脈々と受け継ぐ。
溶融亜鉛めっきとは、鉄鋼製品を亜鉛皮膜で覆い、外部環境から保護する技術。鋼管やインフラに使われる建築資材、建物の鉄骨、身近なものでは標識の柱やガードレール、高速道路の遮音壁...。数え上げるとキリがないほど生活インフラに欠かせない存在だ。新国立競技場や横浜ベイブリッジ、東京スカイツリーでも、同社の技術が用いられている。
会社設立当時は、水道整備の進展とともに、配管めっきを中心に手掛けていた。しかし、時代とともに建設資材にも販路を拡大。今ではそれが主力事業になっている。「都心の再開発や、地方での半導体関連工場の建設も追い風になっています」と、本野晃司社長は堅調な需要の伸びを実感している。
■「人事理念」で職場が変化
同社の強みとしては、技術や生産規模の大きさはもとより、理念経営の実践が挙げられる。
16年前に経営をバトンタッチした本野社長が進めたのが社内改革だった。長年にわたって同じ事業を手掛けていると、何もかもがルーティン化してしまう。職人気質、過酷な労働環境による高い離職率...。当時の同社も「キツイ」「汚い」「危険」の三つが色濃かったという。
本野社長がこれらを打破するために着手したのが「人事理念」の策定。社員にとっての行動指針・クレドでもあり、会社が考える「人材のあるべき姿」を示したものだ。「(人事理念を)実践することで、社員が人として成長し、幸せになることも目指しています」。
具体的には1自律(自ら目標を掲げ、自ら考え、自ら判断し、自ら行動できる)2創造(問題意識を持ち、常に改善・改革を実行できる)3信頼(常に素直で謙虚、お互いを信頼し合い、仕事に誇りと責任を持てる)の三つ。
誰でも覚えられ、実践できるよう極めてシンプルにしたという。
■「新3K」目指す
とはいえ、その理念がすぐに浸透するわけではない。それは、辛抱強く、時間との戦いでもあったという。「とにかく(人事理念を)ひたすら言い続けるしかありません。続けていけば、どこかの瞬間で自走するようになります。(浸透まで)4~5年はかかりました」と明かす。今では、現場の若い社員が働きがいを持つようになり、定着率は飛躍的に高まった。
同社の場合、たとえ退職したとしても「出戻り」を認めている。「人は完璧ではないですし、迷うのは当たり前です。一度辞めて転職し、そこで当社のよさに気付いたら、また戻ってきてくれればよいと思っています。以前よりも働いてくれます」と説明する。実際、社内では10人以上が出戻りを経験しているという。
現在、提唱するのが“新3K”だ。工場は「きれい」で働きやすく、働く姿が「格好よく」、しっかり「稼げる」という意味だ。これらを目指すことで人が集まり、人は「人事理念」をベースに成長し、そして会社も発展する。理念経営を着実に実践することで、長寿企業の道を歩み続けている。