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中小建設業が挑む「DX」

露木建設(川崎市宮前区野川台)は、全社員のITスキルを高めながら、生産性向上と働き方改革を両立させている。他業種と比べ、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が進んでいないとされる建設業界の中にあって、4年以上も前から業務のIT化に着手。全社員にスマートフォンとノートパソコンを支給し、年齢や得意・不得意も問わず、ITスキルを高めていった。今ではクラウド上の業務アプリや社内SNS、テレワークなどを、どの社員でも当たり前に活用するまでになっている。DX推進で、業務効率だけでなく、職場の風通しもよくなったという。

全員参加で働き方改革も

■互いの業務を見える化

鉄筋コンクリート造による建築を得意とする、社員数25人の総合建設会社(ゼネコン)。ナノ・マイクロ産学官共同研究施設「NANOBIC(ナノビック)」や川崎国際生田緑地ゴルフ場など、市内でも数々の有名施設を手掛ける一方、注文住宅にも参入している。

働き方改革を始めるきっかけとなったのは10年ほど前。大手ゼネコンを経て、都内で設計事務所を経営していた露木直巳社長の入社だ。事情があって事業承継をすることになった。当時の同社は「旧態依然」(露木社長)とするほど、昔ながらの建設業の体質。社員同士のコミュニケーションも不足していた。同じ社内にいても、誰がどんな仕事をやっているかが分からない。風通しの悪い雰囲気だったという。

そうした中で、露木社長が5年前に着手したのが「5カ年計画」の策定。今の時代に即した企業理念(ミッション)やビジョン、バリューなどの見直しを進めると同時にDX化にも取り組んだ。

具体的には、社員全員にiPhoneとノートパソコンを支給。デスクトップパソコンや社内サーバーも廃止し、クラウドに切り替えた。そしてグーグルの企業用SNS「G Suite(ジースイート)」などを導入し、全社員に活用を促した。

どこにいてもコミュニケーションできるのがSNSの最大の利点。社員全員が、情報を共有し、互いの業務を見える化すれば風通しもよくなる、と考えたからだ。

■会議の5割はオンライン

とはいえ、社内からは反対意見も出た。「(新しいことをやると負担が生じるため)働き方改革に逆行する動き」と抗議する声もあった。それでも断行し、コンサルタントも呼んで社員の誰もが知識ゼロからでも使えるよう、粘り強く講習会を開いた。今でも水曜日にIT講習会を開催することもある。社内でITが浸透するに従って、これまで敬遠していた社員も参加するようになり、文字通り「全員参加」のプロジェクトとなった。

一方、運営する社内SNSでは、「管理」「営業」「設計」といったコミュニティと、「研修」「人事」「マーケティング」などテーマごとの横断的なコミュニティを設定。“縦と横のコミュニティ”をつくることで、役職や部署を問わず、あらゆる社員が交流できるようにした。全社員のカレンダーもクラウド経由で閲覧できる。「今では社内で何をやっているのかの情報の6~7割はSNS上で把握できます」(露木社長)。

オンライン会議や在宅勤務も推奨。そのための就業規則も見直した。現在、社内会議の5割はオンライン、社員は自己申告で在宅勤務日を設定できる。ただ、その代わりクラウド上に業務日報を提出することを義務付けている。最近では建設現場の様子を24時間見られるカメラも導入した。

■若い人材にとっての環境整備

帝国データバンク横浜支店が2月に発表した「DX推進に関する県内企業の意識調査」(回答504社)によると、DXに取り組んでいる企業は全体の15.1%と7社に1社の割合しかない。業種別では「建設業」や「製造業」が少なかった。しかしながら、建設業は労働基準法改正による残業上限規制が2024年4月から施行されることもあり、働き方改革が待ったなしになっている。そのためにITツールの活用が不可欠なのだ。

同社がDX推進を始めてから4年超。今年2月には、川崎市から「生産性向上・働き方改革推進事業者」として表彰されるなど、その取り組みは外部からも評価されるまでになった。

露木社長は「建設業の現場は高齢化も進んでいるため『社内事業承継』も求められています。だからこそ、若い人材がどんどん入社して活躍できる環境にしていきたいです」と話している。

(2022年4月号掲載)