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マントルヒーター、脱炭素で脚光

半導体製造装置の配管を一定の温度に保つために使われるマントルヒーター。ヒーター線と断熱材(保温ジャケット)を一体化した省エネ型ヒーターだ。地球温暖化防止やエネルギー価格高騰を背景に、急速に需要が高まっている。そのマントルヒーターで、国内の草分け的な企業がある。東京技術研究所(川崎市麻生区栗平)は1958(昭33)年、マントルヒーターの国産化に初めて成功。以来、独自技術を磨き続け、マントルヒーターの世界企業となった。半導体関係を主力とするが、「省エネを実現しつつ温める」という需要は限りなくあり、プラスチックの射出成型や化学製品の製造、真空装置、食品など、あらゆる産業で活躍の場が広がっている。

世界の「温める」に貢献

■1万種類を生産

マントルヒーターは別名、ジャケットヒ-タ-とも言われる。電気で温め、制御もできるのが特徴だ。加熱・保温が必要な配管やタンク、シリンダーなどに熱を効率よく供給。今や半導体製造の前工程の一部では「ほとんどの装置に標準搭載されています」(野本嗣博社長)と言うほど普及する。

高熱のガスを使用する半導体の製造工程では、ガス排気時に低温だと、ガスが固体に変化し配管内で固まることがある。そのため、配管を高い温度に保つ必要があり、マントルヒーターが重宝されるのだ。ジャケット型のため、配管をメンテナンスする際にも簡単に取り外せる。

同社は「年間1万種類は生産している」とするほど、多品種を生産。“温める”という用途はどこにでもあるが、同時に、ユーザーによって目的や使用場所が違う。それぞれに合った製品をオーダーメード生産しているのだ。

■高い省エネを実現

創業は1958年。高度成長期に入り始めたころだった。その名の通り「東京技術研究所」として、自前で研究開発機能を持たない企業のための受託会社として出発した。

ある時、ドイツや米国製が占めていたマントルヒーターの国産化の話が持ち込まれ、開発に着手した。やがて野本社長の代になると、業界ではいち早くCAD/CAMを導入。職人による属人的なものづくりから脱し、システマティックな生産体制を築き上げた。

現在は川崎のほか、東北(岩手)や栃木などに工場を持ち、年商は約40億円、従業員数300人を擁する企業になった。

さらなる追い風もある。温暖化対策に対する機運が世界的に高まっていることだ。マントルヒーターは、いわば「ジャケットをまとったヒーター」のため、熱が逃げず高効率に温められる。当然、省エネにもなる。

「(当社の)ジャケットを既存の金属ヒーターに付けるだけでも20 ~ 30%の省エネ効果が発揮できます」。

用途も広がっている。プラスチックの射出成型では、材料となるペレットを溶融する際、ヒーターの省エネになる。このほか、防水型マントルヒーターは、有名ソース会社の製造ラインに納入されるなど、着実に販路を拡大している。「ジャケットで取り外せますので、設備のメンテナンスが必要なものにも向きます」と話している。

■国内回帰の切り札

マントルヒーターは世界的な普及とともに、アジアからの新規参入企業も出てきている。しかし、効率よく熱を伝えるための設計技術や、安全性を実現する品質、長寿命などで同社には及ばないという。「当社は昭和30年代からやってきました。数限りなく実験を繰り返し培ってきたノウハウがあります」と力を込める。

今後、製造業の国内回帰が進む中、懸念材料である電気代高騰を乗り越えるためにも、省エネの追求は不可欠。その際、同社のマントルヒーターの存在が切り札になることは間違いなさそうだ。

(2023年1月号掲載)