プラスチック(樹脂)成形に新風を吹き込もうとする企業が川崎市幸区にある。JR新川崎駅近くの産学交流・研究開発施設「エアビック」に入居するベンチャー、micro-AMS(マイクロAMS)だ。一般的に樹脂成形の主力となっている射出成形法のように、大がかりな金型を使わず、むしろ“金型レス”に近い成形法を実現。特殊なゴム製の型に対して樹脂材料を投入、専用機でマイクロ波を当てると成形される。まるで「電子レンジのようにチンするだけ」で精密樹脂部品が完成する。
マイクロAMS、光成形技術で世界展開も視野
■電子レンジのイメージ
「光成形技術」と名付けた同成形法は、特殊処方のゴム製の型に熱可塑性(熱を加えれば軟らかくなり、冷却すれば硬くなる)を持つ樹脂を詰める。
そして独自開発した専用装置「マイクロ波照射成形システム」に入れ、真空状態にしてふたをする。専用装置内でマイクロ波を当てると、ゴム型内が加熱され成形される仕組み。後は取り出し冷却し、型から取り出せば完成する。
同社によると、材料を充てんしてから、携帯電話サイズのものであれば1~2時間で仕上がるという。「必要なところに材料を入れ、電子レンジでチンするだけのイメージです」と、小南啓CEOは語る。
これに対し、従来の射出成形は成形品ごとに金型を製作する必要がある。コストと時間が必要だ。大量生産にはよいが、少量多品種には向かない。確かに、金型を使わずに短期間で少量生産が可能な点は、3Dプリンターも同じ。だが、3Dプリンターだと、使用できる樹脂の種類が限られ、強度も出にくい。
その点「(光成形は)ほとんどの汎用樹脂に使用可能で実装も可能です」(小南CEO)と言う。脱炭素で注目されるバイオマス・生分解性プラスチックにも対応した。
■25年の市場投入目指す
一方、材料をゴム型に必要な分だけ充てんする方式なので、射出成形の段取り替えで発生する廃棄樹脂も97%以上削減する。「スーパーエンジニアリングプラスチックス(エンプラ)などの高価な材料の成形は、より適しています」(同)。結果的に射出成形と比べ、金型を製作しない分、半分以下の型費用・納期になるという。
すでに同技術はトヨタ自動車の低速自動運転EV「e-Palette」の難形状のスタンションポール(手すり)のエンドキャップなどに採用された。現在、専用装置の製品化を進めており、2025年10月の市場投入を目指す。
価格は1000万円以下を想定。「世界中に装置を提供していきたいです」と小南CEO。装置販売に合わせ、樹脂ごとの成形条件や、異なる樹脂を組み合わせた製法などをビッグデータ化して提供することも視野に入れる。