日本発の「バリ取り技術」が世界に進出する。ブルー・スターR&D(相模原市中央区横山台)は、新開発の超音波洗浄技術を使うことで、精密部品などのバリ取りが自動で行える装置の海外展開を加速させる。景気の先行き不透明感が国内外で漂っているが、人手と労力がかかるバリ取り作業を自動化し、効率化やコストダウンを求める動きは世界共通。同社はバンコクと天津、北京、蘇州に販売拠点を相次いで新設し「市場規模4000億円」とされるアジアの“バリ取り市場”の開拓に乗り出す。

世界的な人件費上昇が商機

従業員30人の超音波洗浄装置専門メーカー。超音波洗浄といえば、メガネの洗浄などをイメージするが、その用途は幅広い。水に超音波を当てると「キャビティー」と呼ばれる微細な泡が発生する。これを使うことで、対象物の表面を傷付けることなく、付着した汚れを除去する技術だ。

柴野佳英会長は、同技術の研究開発に明け暮れること40年。その過程で、バリ取りや研磨にも有効であることを発見した。そして、これらが一度にできる「超音波洗浄バリ取り装置」を開発し、2014年1月に製品化した。

こうした技術は「県工業技術開発大賞」や「かながわ産業Navi大 賞」などに選ばれ、昨年は文部科学大臣表彰も受賞した。現在、大手自動車メーカーや部品メーカーが相次いで採用。世界20カ国以上に納入されている。

■国境の壁ない

金属やプラスチックなどは、加工すると、「バリ」と呼ばれる不要部分が必ず発生する。バリが付いた状態で出荷してしまうと、故障の原因となる。そのため、手作業や専用装置で除去することが不可欠。とはいえ、手作業の場合、極めて単純な上、部品量が多ければ人手や時間がかかる。柴野会長によると、海外も人件費が上がっているため、競争力を確保するには、もはや自動化が避けられなくなっているという。

同社では海外顧客に対するフォローに、インターネット電話などを活用している。「今や海外で装置の故障があっても、映像を見ながら指示できるので、販売面で国境の壁はなくなりました」と柴野会長は言う。

■4000億円市場

実は15年以上前、同社は当時「世界の工場」と言われていた中国で超音波洗浄装置を普及させようとした。だが、装置を持ち込んで間もなく、完全なコピー製品が市場に出回り、類似企業も20社近く設立された。そして撤退を余儀なくされた苦い経験がある。

それから年月がたち、柴野会長は今年11月、再び訪中した。そこで目にしたのは、以前の中国とは異なる光景だった。地方でも街並みは見違えるほどきれいになり、現地企業の技術者たちの目も輝いていた。「まるで日本の製造業が日の出の勢いだった昭和40年代の技術者を見ているようでした」(柴野会長)。

中国での再チャレンジを決め、パートナーには、かつて製品をコピーした現地企業に白羽の矢を立てた。「コピー製品を売るくらいなら、弊社の製品を売らないかと誘いました」(同)とし、代理店を任せることになった。柴野会長は「昔、苦い経験をしたからこそ、できることがあります。借りは返していきたいです」と意気込みを見せる。

今後は中国を含め「4000億円市場」とされるアジアのバリ取り市場を舞台に会社を成長させ、将来はIPO(新規株式公開)も視野に入れている。新たな挑戦が始まった。

(2019年12月号掲載)