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ハーレーの「チューニングデータ」販売

コロナ禍での危機をチャンスに変え、オートバイ専門店の全く新しいビジネスモデルを構築した企業がある。高級バイク「ハーレーダビッドソン」専門店のパインバレー(横浜市金沢区幸浦)は、これまで手掛けてきたバイクの膨大なチューニングデータを“情報資産化”し、愛好家の実車に内蔵された制御コンピューターにインストールすることで、パワーやトルクを変えて最適な乗り心地・走り心地にカスタマイズするサービスを始めた。「まるで別物のバイクに変わる」(松谷昇一社長)という。専用車で全国を回りながら、郊外の飲食店などの空きスペースを借り出店。各地の愛好家の需要を掘り起こす。全国を巡ることで、支店開設に向けたマーケティングにもつなげる。

専門店、全国を巡る新ビジネス

■台数世界一の年500台

現在のハーレーは、クルマ同様にコンピューター(ECU)によって制御されている。エンジンの回転数や温度、ガソリン噴射量、点火タイミング...。「新車にプログラムされているこれらデータは、ハーレー本来の姿とは決して言えないセッティングになっています」(松谷社長)と説明する。

同社のサービスは、専用パソコンと愛好家のバイクを接続。もっと走りを楽しくしたいとか、パワーアップしたいなど、さまざまな要望に合わせ、独自開発したクラウドシステムからカスタマイズデータをインストールしていく。「クラウドなので遠隔地からでもインストール可能です。データ販売は高収益ビジネスになります」

同社はハーレーのチューニング台数世界一とされる年間約500台を手掛けるカスタムショップ。ハーレーは全国的にも根強いファンがいるため、県外からの来店客が絶えない。

そのため、県外支店を要望する声があるものの、そもそもバイクショップは、その地に根差した商売をするのが一般的。同社のようなカスタムショップの多店舗展開は前例がない。投資リスクもある。

そんな最中にコロナ禍に見舞われ、これまで通りの来店が見込めなくなった。

■コロナ禍で考案

打開策として松谷社長がまず着手したのがバイク用品量販店と連携した同サービスの提供。全国にある量販店のスペースを間借りし、そこに移動販売車を出していくものだ。

結果的にこのイベントは全国6都市で開催。「大成功でした」とするものの、家賃負担も大きく、長期的な継続は難しいと判断した。

ならば別の道を探ろうと発案したのが、郊外にあるカフェやレストランとのコラボ。具体的には、郊外店の駐車場スペースなどを借り、そこに移動店舗を出す。

やってくる地元愛好家にはチューニングが終わった後にコラボ店のミールクーポンを渡し、利用を促す。飲食店側にとっても来店増になる。

この取り組みが奏功。今年3月から移動店舗による全国ツアーを始めることになった。

■若手社員の修業にも

実行部隊として20代の若手社員2人を抜てき。各地を1カ月ごとに巡り、地元飲食店へのコラボ交渉から運営までを託した。

「日本中を回りながら自分たちで稼ぎ、楽しいことやトラブルをたくさん経験してきてくださいと送り出しました」。また、やる気を引き出すため、毎月の売り上げに応じて、3万〜30万円インセンティブも支給するようにした。

すでに7都市以上で開催。「毎月予想を上回る売り上げです。地域ごとの市場も見えてきました。そのため、支店開設も検討しています。結果的にコロナ禍はピンチでなくチャンスでした」と松谷社長。これまでの常識を打破する新ビジネスが今、拡大しようとしている。

(2023年10月号掲載)