農業革新(アグリイノベーション)を起こしたい―。アグリベンチャー企業、シイズンドアグリ(東京都大田区羽田)が開発した「食後のニオイが気にならないニンニク」がヒットを飛ばしている。10年ほど前に市場投入して以来、今では年間150トンを出荷。大手中華料理チェーンでの採用を皮切りに、大手コンビニエンスストアの一部地域で販売されるパスタ類などに使われるなど、次々と消費されている。コロナ禍で在宅勤務も拡大する中、においの問題でこれまで敬遠されていたニンニク料理の総需要が高まっているのも背景だ。
急成長で年150トン出荷
熊本や青森の農家と契約し出荷している。ニンニクの味や香り、栄養はそのままで、食後に感じるにおいだけを約75%カットした。
これまでにも無臭ニンニク類は市場に出回っていたが「『においがない』ということに対する科学的立証(エビデンス)が示されていませんでした」と大谷行輝社長は説明する。
同社は唯一、ニンニク臭のメカニズムを解明することに成功した。
ニンニクには無臭の「アイリン」という物質がある。それをカットしたり、調理したりすると、「アリシン」と「スルフィド類」という、おいしいそうな独特の香り物質に変化する。そして食後にスルフィド類が消化酵素と反応し、吸収・凝縮され、気になるにおいに変わるという。
同社は約4年間かけ、出荷過程で“企業秘密”とする肥料を使用することで、スルフィド類と消化酵素との反応を抑える技術を開発。臭気指数測定でにおいを数値化、抑制効果を立証した。
■アグリイノベーション起こす
もともと、食品工場で佃煮を製造する過程で出る残さをリサイクルし、アミノ酸が豊富な農業用肥料の開発を手掛ける企業。
肥料は九州のJAなどで採用されているが、ある時、ニンニクを生産していた熊本の農家が、大口取引先との契約を打ち切られてしまった。相談を受けた大谷社長は「(肥料の次は)ニンニクをやってみよう」と決断。「食後のニオイが気にならないニンニク」の開発に至った。
現在、大手コンビニエンスストアや外食チェーンなど、計10社と供給契約。それ以外にも、高級スーパーの店頭にも置かれている。「ニンニクは和食以外、すべての料理に使われており、汎用性がある食材です。さまざまな可能性があります」と大谷社長。まずはニンニクからアグリイノベーションを起こそうと奮闘する。