営業マンほぼゼロ、モデルルームもない。それでも、競争が厳しい注文住宅の世界で県内トップを走り続ける企業がある。三陽工務店(相模原市南区旭町)は、リクルートの不動産情報サイト・SUUMO(スーモ)が選ぶカウンターランキングで2016年から4年連続で県内1、2位を受賞する。高気密・高断熱と健康にこだわった住宅、そしてホームページ(HP)を中心とした卓越したデジタル戦略で大きな差別化を図っている。
営業マンやモデルルーム持たず躍進
■ローコストで提供
従業員30人に満たない工務店だが、年間100棟を提供する。同社の住宅は、最新の断熱基準「HEAT20」において一番厳しいグレードを達成しつつ、長く住み続けられる耐久性と、住む人の健康も考えたこだわりを実現。それを1000万円台で提供している。
高気密・高断熱の住宅は北海道などの寒冷地にはマッチするが、神奈川や東京のような、ヒートアイランドがある暖地には向かないとされている。
高気密・高断熱ゆえに、夏場はカビ、冬場は結露ができやすいからだ。その点、同社は独自の「壁体内通気工法」により、高気密・高断熱でありながらもカビや結露を抑制している。
こうした住宅をローコストで提供できる理由について、荻沼康之社長は「営業マンやモデルルームがないこと」を挙げる。それらにかかるコストをすべて販売価格に反映させているという。
■営業マンよりデジタル人材
とはいえ、どんなに安くて高品質な商品があっても、販売となると話は別。大手企業なら営業マンによる人海戦術や莫大な広告宣伝費を投じてモデルルームに呼び込むものの、経営資源が限られた中小企業には限界がある。
その点、同社はデジタルの徹底活用により“小が大を制す戦略”を実践している。「ほとんどの会社は、(商品を)売るために営業マンを入れたがりますが、当社は違います。営業マンよりも、ホームページやブログ、インスタグラムを更新する人材を入社させます」(荻沼社長)と明かす。
今やデジタル全盛時代。営業のやり方も変わってきている。同社では、HPやブログなどを毎日更新。SEO対策やキーワード検索などで優位になれるよう、専門の人材を配置する。
「この業界では『中小企業の社長が毎朝出社し、ブログに現場写真などをアップすることを年365日中200日継続すれば、必ず売り上げはアップする』と言われます。しかし、それができないなら、専属のスタッフを雇う覚悟が必要です」(荻沼社長)とも説明する。
同社がHPで使用する写真は500枚以上。荻沼社長が「(当社ホームページという)仮想現実の世界で(住宅の)デパートを作っています」と例えるほど、充実させている。
ただし、ブログやインスタには、家づくり以外の話題は載せない。中途半端な内容だと、かえって企業イメージを損ねるため、投稿する記事は、しっかりと取材し完成度を高めた上でアップする徹底ぶりだ。
とはいえ、HPやブログでは、同社にとって一番のセールスポイントである「健康住宅」の詳細は、あえて伝えない。HPなどを見て興味を持って来社したお客さんに、対面で直接伝えることでお客さんの感動につなげ、成約率を高めている。「HP上でクロージングのカードは出しません。クロージングに必要な部分は来店時の説明に残しています」と荻沼社長は言う。
ポストコロナ時代。「これからの建築業界は集客の方法が変わる」(荻沼社長)と、いち早くデジタル化を導入し、結果を出している同社の取り組みは、他業界の企業であっても、参考になりそうだ。