住まいの産業 / ライフサイエンス

コロナ除菌現場から生まれる新事業

2020年2月に新型コロナウイルスの集団感染が発生した国際クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」。当時、未知のウイルスに対し、日本がどう対峙(たいじ)していくかを世界中が見守った。その中で、日本企業として初めて、現場の除菌を託されたのが、まだ創業したばかりのユニゾン(横浜市旭区笹野台)だった。目前の脅威に対し、同業他社が相次いで敬遠する中、弱冠20代の大竹亮輔社長は名乗りを上げた。「地元・横浜で発生したことは、地元の会社がやらねば...」。使命感を胸に、家族に「遺書」まで残して現場に駆け付けた。それから約3年。コロナ禍が落ち着きを見せつつある現在、数々の修羅場を踏んできた経験を生かし新事業に乗り出した。

ダイヤモンド・プリンセスの経験生かす

■遺書を残し現場に

同社が手掛けるのは、いわゆる「特殊清掃」。除菌・消臭をはじめ、家財や遺品整理、孤独死現場の清掃、死臭除去...。その守備範囲は幅広い。

横浜の造船メーカーなどに勤務していた大竹社長が3年半ほど前、仲間とともに同分野で創業した。とはいえ、実績がない創業時の販路開拓は、どの起業家にとっても大きな壁。同社も同じだった。

こうした中、世界中の目が横浜港に向けられるようになる。ダイヤモンド・プリンセスでの集団感染だ。乗客乗員3713人のうち712人が新型コロナに感染し、14人が死亡したことは記憶に新しい。

当初、除菌を担当したのは米国企業だった。だが、期限内での作業完了は難しかった。

しびれを切らした厚生労働省は国内業者を探していたが、人類にとって未知のウイルスへの対応。「従業員をそんな危険にさらしたくない」と、どの業者も断り、対応に苦慮していたという。

そこで大竹社長は知り合いを通じ、同省の担当者にアプローチ、すぐに受注が決まった。「造船の世界にいましたので、船舶の構造に詳しく、かつ特殊清掃ができる業者は当社しかありません。地元の私たちでやりたいという使命感もありました」と大竹社長。

家族には遺書を残し覚悟を決めた。同業者のメンバーも募り、3月にダイヤモンド・プリンセス船内に入り、無事に作業を終えた。

■独自のノウハウ蓄積

集団感染はこれだけではなかった。4月には長崎に停泊中のクルーズ船「コスタ・アトランチカ」に乗務していた複数の乗員が新型コロナに感染。ダイヤモンド・プリンセスの実績から同社に白羽の矢が立ち、今度は自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)と同じタイミングで現場入りした。

そこで大竹社長が目にしたことは、今でも鮮明に覚えているという。「ふらふらになった乗員が救急車で運ばれていったり、長期にわたる船室での隔離で心身の調子を崩したりする人たちがいました」

この未知のウイルスに対し、厚労省や米国疾病予防管理センター(CDC)、世界保健機関(WHO)は除菌方法のルールを定めていた。ダイヤモンド・プリンセスに入る前から、同社もその講習を受けて臨んでいたが、現場での経験を積むにしたがって、より改良を重ね、独自のノウハウを構築していったという。

■「ブースト剤」を開発へ

命がけで除菌作業に当たっただけの“リターン”は大きく、マスコミ各社による取材や、月50~60件ほどの除菌依頼が寄せられるようになった。「大きな財産になったのは、感染症の最前線にいる専門家の人たちとのネットワークができたことです。だから世界トップレベルのコロナ除菌技術を提供できます」と胸を張る。

コロナ禍が落ち着きつつある現在、除菌に関する問い合わせは月数件になったが、今後はそのノウハウを生かした新事業を立ち上げる。

具体的には、除菌・消臭現場で使用する二酸化塩素(ClO2)などの効果を倍増させるブースト剤の開発に、専門家とともに着手。ダイヤモンド・プリンセスの経験から、従来の除菌剤の効果を高めることで、作業を効率化する製品ができないかと研究を進めてきたという。「ものづくり補助金」にも採択され、近く製造設備を導入して量産に入る。

生産設備稼働後は、すでに九州の特殊清掃業者への供給が決まっている。特殊清掃業者からブースト剤のメーカーへ。アフターコロナ時代に大きな変貌を遂げようとしている。

(2023年6月号掲載)