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クレーンのメンテナンスで独自戦略

ものづくり企業の工場内にある天井クレーン。荷物を上げたり、下げたり、運搬したりとさまざまな用途で使われ、生産に欠かせない存在だ。鈴城製作所(川崎市宮前区南野川)は、もともとクレーンを製造販売する専業メーカーとして出発した。約25年前から事業再構築を進め、今ではクレーンの保守・メンテナンスを主力にする。クレーンをゼロから設計、製造、設置できる強みを生かしたメンテナンスに加え、何かあれば当日でも駆け付けるという対応の早さで差別化。大手企業の大規模工場のクレーンメンテナンスを引き受けるまでになっており、生産現場の安全・安心を支える。

メーカーの強み生かし事業再構築

■「予兆」も探る

県内を中心に工場を巡回し、法律でも義務付けられているクレーンの点検・メンテナンスなどを手掛ける。「質の高いメンテナンスを目指しています」(鈴木正和社長)と言うように、マニュアル通りの点検では終わらない。「メンテナンスも技術でありノウハウ」という考えが根底にあるからだ。

そのため、たとえ異常がなかったとしても「予兆」も探る。例えば、細かい構成部品や消耗品の交換時期なども合わせて報告し、故障を未然に防ぐ提案もする。

「現場から戻ったメンテナンススタッフから『問題ありませんでした』という報告は一切受け付けません。何かしら発見できるはずです」と、鈴木社長は力を込める。

もともと、1960年にクレーン専業メーカーとして設立。当時はパイオニア的存在だったものの、大手も含め参入業者が増え始め、いつしか価格競争になっていった。

こうした中、大手電機メーカーでメンテナンス部門を経験した2代目の鈴木社長が入社。「クレーンの需要は先細りする。何か次の手を打たなければ…」と、模索を続けた。そして始めたのが、得意であるメンテナンスだった。そもそもクレーンを設計・製造できる専門的知識があるため、同じメンテナンスでも他社との大きな差別化につながると、事業再構築を決断した。

■スピード対応で差別化

参入から「軌道に乗せるまでは10年以上かかりました」(鈴木社長)と明かすが、現在は県内を中心に、大規模も含め計15工場のメンテナンスを担う。社員数6人ながらも、大手企業から指名されることもある。

その理由として、メンテナンスの「質」もあるが、取引先のクレーンに何かあった場合は、すべての連絡先を社長直通携帯に一本化し、迅速に対応していることがあるとする。「とりあえず、お客さんを落ち着かせないといけません」(同)と、内容を聞いたうえで、最適なスタッフをスピード派遣。いない場合は、社長自らが直行する徹底ぶりだ。

同業他社がスタッフの手配などを含め3日かかるのに対し、原則として即日、遅くても翌日には現場に出向く。

一方、社内ではDX化を推進。クラウド型の会計システムや勤怠管理システムなどを積極活用しており、事務作業の効率化も図っているという。

コロナ禍以降、政府の後押しもあり、製造業では国内回帰の動きが広がっている。そうなると、設備の新旧を問わず、メンテナンスへのニーズもおのずと拡大する。25年前、事業再構築に踏み切ったからこそ、今の同社の姿がある。

(2022年8月号掲載)