食品輸送専門、フレッシュロジスティクス(川崎市高津区下野毛)が、働く人たちのモチベーションアップにつなげる独自の人事システムを導入した。昇給や昇格の基準を“見える化”し、裁量も現場に委ねる仕組みだ。他の中小企業でもよく見かける、社長や役員たちによる一方的な評価を改善。外部の専門家である社会保険労務士法人と連携し策定した「現場主導の新制度」だ。自分は何を頑張り、何を身に付ければ給与が上がっていくのか―。これらすべてを明示することで、社員のやる気を引き出し、スキルアップや定着率向上にもつながっているという。

現場に裁量権与え基準見える化

■コロナ禍きっかけに着手

県内の有名百貨店をはじめ、駅ビルや駅ナカといった各商業施設の店舗向けに食品を届ける。その数は県内と都内、千葉、埼玉県内で計300カ所にも及ぶ。百貨店や入居する店舗の運営企業など、約160社と契約。商品を同社の物流基地を経由して各商業施設に運んでいく。従業員150人のうち、大半がドライバーだ。

とはいえ、運送業は重労働。以前は勤務時間が長く、十分な休日の確保すらままならなかった。このままだと、人材確保はおろか、今いる社員たちの離職を招いてしまう。経営を引き継いだ奥村藤雄社長は、働き方改革を断行。人事制度の見直しにも着手した。

白羽の矢が立ったのはブレイン社会保険労務士法人(東京都千代田区)。「これまでは役員や一部の上級管理職が社員を評価していましたが、基準がなく、主観的な人事評価でした。ただ、人手不足が懸念される中、しっかりと労働の対価を払っていかないと、人が集まらないし定着もしません」と、池田勝取締役は明かす。

その上で、新しい人事評価の策定は“客観的な視点”を持つ社外専門家に託さなければ、公平性がなくなるとした。

■昇格基準を明確化

同法人の北村庄吾代表らは数日間かけて、社員全員を個別にヒアリング。人事制度に対する不満点などを聞きながら、現場にいる課長や係長など中間管理職を巻き込み、社員を評価するための項目の策定に携わってもらった。

「(評価制度の策定は)社員の皆さんのためのもので『一緒に作り上げていこう』と説明し、理解を得ました」(同法人の北村庄吾代表)。

こうして2021年10月から新制度の運用を始めた。社員を1~5までの等級に分類。等級が上がるたびに、給与が上がる。査定は年2回。

例えば、新人の1等級を評価するのは現場の係長、課長、最終承認者は部長で、中間管理職に評価の裁量権を持たせた。

1等級の場合は、2年連続でA評価以上が得られれば2等級になれる。2等級から3等級なら、2年連続のA評価以上に加え、会社指定の外部試験、課長推薦による部長面談が必要だ。評価項目は等級、職種ごとに求められる内容が異なる。

■成果出す仕組みづくり

また、同じ項目でも自己評価したものと、上司が評価したものでギャップがあれば、本人の足りない点が明確になり、教育もしやすくなる。同社では、評価項目に基づいたマニュアルも策定し、研修も実施した。

「中小企業にとって一番の問題は『人』です。労働力人口が減少する中で、よい人材がやりがいを持って働き、成果を出し、それを還元する。よい人材に長く働いてもらえる仕組みづくりが必要になります」と、北村代表は強調する。

現在、同制度は順調に回っており、今回の人事で26人が1等級から2等級に昇格するという。

(2023年7月号掲載)