2023年3月、小田急線・百合ヶ丘駅前に完成した川崎信用金庫の「かわしん百合丘ビル」。職員寮としてだけでなく、地元に若者を呼び込もうと、周辺の大学に通う学生向けの寮も併設する。このビルを手掛けたのは、地場ゼネコンの北島工務店(川崎市麻生区上麻生)だ。1965年7月の会社創立以来、時代に流されることなく、ずっと地元密着を貫いてきた企業でもある。慢性的な人手不足が続く建設業界にあって、この戦略が奏功し、今や地元志向の若い人材の獲得に成功。若者が活躍する企業になってきている。

人材獲得にもつなげる

■学生寮で若者呼び込む

川崎信用金庫は、2023年7月の創立100周年に合わせ、一部支店を地域課題解決のための拠点として整備している。横浜、川崎市内にある4店舗を対象に、新たにサービス付き高齢者住宅(サ高住)や学生寮を併設していく。

このうち百合丘支店の新ビル(地下1階、地上9階建て)では、学生寮・職員寮を併設。2~8階は職員・学生寮、9階は共用食堂とした。学生寮の運営は、学生情報センターが担当する。

地元・川崎市は人口減が予想されている。学生寮を設けることで若者を呼び込み、地域活性化につなげるのが狙いで、今後は同ビルを活用し、学生と地元企業との交流の場やインターンシップの機会も提供するという。

■商圏は多摩・麻生区中心

そんな同ビルを手掛けた北島工務店は、「地元の小さなゼネコン」(北島裕斗・営業グループチーフ)と例えるほど、その業容は幅広い。教育や福祉施設などの新築・増改築工事をはじめ、フルオーダーの注文住宅、マンションの大規模修繕、個人宅のリフォーム・リノベーション、店舗改装...。社員数約30人ながらも、これらすべてを設計からワンストップでこなす。

大手ゼネコンとの最大の差別化になっているのが、徹底した地域密着戦略だ。しかも「多摩区」「麻生区」にこだわる。「売りっぱなしのモデルではなく、お客さんに何かあった場合、1時間以内に駆け付けられるようにしています」と北島チーフ。特にリフォーム事業の場合、顧客は個人。どんなお困りごとでも対応することで、口コミが広がり、選ばれるチャンスが増える。大手にはできないことだ。

■若い人材も入社

若い人材も活躍する。同社3代目の北島チーフもまだ20代。昨年、同社では地元・向の岡工業高校の生徒を対象に、川崎信金の協力を得て、建設中の「かわしん百合丘ビル」の見学会を開いた。

4月に入社した工事部・工事グループの鈴木明人さんも、その時に参加した生徒の一人だった。学校では建設科で学んでいた。それでも「(現場は)想像していたものとは違いました。重労働というイメージで、(同じ学科の)周囲には敬遠する人もいましたが、実際は楽しそうでした」と、入社のきっかけになった。

鈴木さんもまた地元出身。高校を出てすぐに就職したいと考えていたが「都内ではなく地元で働きたいという思いがありました」。

地元に根差して商売をしてきたからこそ、地元を愛する人材が集まる。徹底した地域密着戦略が奏功している。

(2023年9月号掲載)