世界的に市場拡大が続く有機EL(OLED)市場。高画質の有機ELディスプレーがその代表例だが、スマートフォンや照明、電気製品の表示部分など、その用途は幅広い。その有機ELの生産に欠かせない企業が厚木市内にある。厚木ミクロは、「パッシブ型」と呼ばれる有機EL用の基幹部品である超薄型ガラス基板を開発、製造する。社員数50人に満たないが、業界シェアは約4割を誇る。基幹部品という、いわば“裏方”の会社であるため、同社の存在が表に露出することはほとんどなかったが、世界でも戦える、知られざるオンリーワン企業だ。
基幹部品でシェア4割実現
■幅広い産業で期待
極めて薄く、しかも画像を美しく表現できる有機EL。分類すると、テレビやスマートフォンなどに使われる「アクティブ型」、それに地味だが表示装置やヘッドアップディスプレーなどに利用される「パッシブ型」の2種類がある。
アクティブ型は、世界的な電機メーカーが軒並み参入する分野だが、パッシブ型は日本企業も参入する。
例えば、表示装置などはバックライトを使う液晶の場合、電源を消したとしても光の余韻が残る。
しかし、自発光するパッシブ型の有機ELにはそれがない。基板に樹脂やフィルムを用いれば、折り曲げることも可能だ。今後は幅広い産業での活用が期待されている。
同社はそのパッシブ型の有機EL業界で「国内メーカーならほとんど取引しています」(上田康彦社長)と言うほど、オンリーワン的な存在になっている。
■薄さ0.4mm
有機ELでは、中に組み込む基板にも特殊な技術が求められる。同社の場合、「無アルカリガラス」や「ソーダガラス」といった材料から有機EL基板を製造。その薄さは0.4~0.7mmという。
厚木にある工場内では一貫生産ラインを敷く。試作品もあれば、月500~2万枚の量産までカバーする。さまざまな基板材料を仕入れ、そこに金属膜や樹脂膜などを成膜。その上に複雑な電気回路のパターンを形成する「フォトリソグラフィー」や「エッチング」を施す。ほとんどの工程を自社内で完結させるため、完成までの期間が早いという。
「試作品生産は、通常は1カ月の納期をもらっていますが、2週間でやることもあります」と上田社長は語る。
■国内回帰も進む
海外企業ともしのぎを削る。ただ、豊富な資金力を背景に、海外勢がどんなに最先端の生産設備をそろえても、製法になると話は別。種類が異なる基板材料、それに基板の使い道によって製法を変えなければならない。それが同社のノウハウで、強みでもある。「品質面でも追い付けないはずです」と上田社長は胸を張る。
実際、厳格な品質基準が求められる自動車業界では、欧州企業が同社製基板を採用する動きが出ている。
有機EL用のガラス基板をはじめ、樹脂やフィルムなども基板化できるため、今後は技術の用途拡大も狙う。
具体的には、透明ディスプレーや医療用デバイス、ヘッドマウントディスプレーなど、活躍できる分野は数限りなくある。業界的にも国内回帰が進んでいるとしており、基幹部品という地味な分野ながらも世界シェア拡大をにらむ。
この記事のポイント
- 有機EL市場の成長とともに基幹部品の国内生産で差別化
- 一貫生産体制を敷くことで強み発揮、メーカーにとっても欠かせない存在に
- 最先端分野で多様な用途拡大を見込む