電源装置製造、東洋電源機器(横浜市港北区新羽町)は“壊れないものづくり”を実践する。バックアップ電源や客先仕様の特注電源などを生産する同社は、変電所や水道、ガス、鉄道など、あらゆるインフラを支える。1979年の設立以来、こだわっているのは、アナログながらも故障せず数十年使い続けられる品質。同社の場合、インフラに関わる製品だけに、稼働しなかったら大問題にもなりかねないからだ。これまで出荷した累計5万台のうち、故障した製品の割合はほぼゼロ。その秘訣は、余計な部品を一切排除した、極めてシンプルな設計にあるという。
インフラ支える「シンプル設計」
■インフラに欠かせない存在
インバーターや安定化電源装置、トランス、バックアップ無停電電源装置(UPS)...。社員数15人の専業メーカーとして「電源」に関わるものづくりをしており、取引先は海外にも及ぶ。
現在、多品種の製品をそろえており、国内では主にインフラ施設などで採用される。一方、電力事情の悪い海外にも輸出。電流や電圧を安定して供給する同社製の安定化電源装置は広く使われている。
トランス製品の用途も幅広い。電圧が異なる海外製の装置を日本で使う時や、日本製装置を輸出して海外で使ってもらうためには必ず必要になる。
2012年にはデンマークの電源センサーメーカー、ダニセンス社と販売代理店契約を締結。医療機器や加速器用の電流センサーの販売にも乗り出している。
■400以上の取引先
同社製品は「他社より少し高いです」(雨宮勝廣社長)という。それでも累計5万台を突破。取引先も名だたる大企業や大学、自治体など計400以上。なぜ売れるのか。大きな理由は「壊れないものづくりの実践」(雨宮社長)だという。
同社のものづくりは、どの製品であっても、設計や使用部品、部品点数などが数十年前と変わっていない。むしろ変えていない。デジタル全盛時代。電源装置も軽薄短小や高性能を追求する動きもあるが、その流れには乗らない。昔ながらのシンプルな回路、部品を主体としたアナログを貫く。
「(当社のものづくりを)一言でまとめると『古くさい』です。余計なことはしません。設計が複雑になり、余計な部品が入れば故障リスクが高まります。だからシンプルさが大切なのです」と、雨宮社長は明かす。
そのうえで、「安価なものを購入しても、数年後に故障してしまったら、対応に時間とコストがかかります。それに対し、当社製品は20~30年間壊れません。長い目で考えると、どちらが(お客さんにとって)メリットが大きいでしょうか」と語る。
そんな同社製品は、価格よりも信頼性が重視されるインフラ関係を中心に普及。特注品を含む高信頼製品を短納期で買ってくれる業界をターゲットとしている。ニッチだが、底堅い市場でもある。
■流されないものづくり
このほか、差別化するための工夫も随所で見られる。例えば、出荷時の製品梱包。段ボールは「見た目にこだわっています」としており、製品のサイズごとに用意。使用するテープまでも特注する。
納入後も「売りっぱなし」で終わらない。何かあれば最短即日、遅くても数日以内に駆け付けるという。「小回りが利くのが私たち中小企業の強みです。サービスは一番の基本です」と力説する。
社内では納期短縮につなげるため、受注から出荷までの情報をデータベースで一元管理するシステムを独自開発。「横浜知財みらい企業」にも認定された。
注文した企業や用途、納期、生産時に使用する部品、納期...。受注情報から生産情報などの一連の流れを、複数の担当者が入力し、その情報を社内で共有、データベース化するシステムだ。これにより、出荷製造期間の削減や不良発生率の低減につなげている。
40年以上前。まだ開発が進んでいない横浜市港北区でパートナーとともにゼロから出発した雨宮社長。「バブル崩壊に始まり、震災やリーマンショック、コロナと、何度も大きな波が来ましたが、ここまでやってきました」。時代に流されることなく、ブレないものづくりを愚直なまでに貫いたからこそ今があるのだ。