機器・装置・製品/ロボット

「巻き込み力」で脱下請け

 

脱下請けを目指す中小企業にとって、必ずネックになるのが販路開拓。製品は優れているが、いかんせん営業が難しい―。そんな壁にぶち当たり、諦めてしまう企業も少なくない。相模原市緑区の永進テクノもかつてはそうだった。それが今では自社製品の浮遊物・浮上油回収装置を世界10 カ国に累計2500 台以上販売する。社員数30 人の企業だが、同分野でトップランナーといえる存在だ。脱下請けを実現したのが、全国の販売店を巻き込んだ戦略。名もない自社製品をどうしたら一生懸命売ってもらえるか。そこに知恵を絞った。

永進テクノ、自社製品を国内外に普及

大手重工メーカーの工場内設備の維持・補修を担う企業として1974年に創業。やがて自家発電装置の設計や製造受託にも業容を広げるが、2008 年にリーマンショックが襲う。数カ月先の仕事まで全てキャンセル。当時副社長だった鈴木道雄社長は頭を悩ませた。現在のコロナショックをはるかに上回る衝撃だったという。そうした中で進めたのが自社製品となる装置の開発だった。といっても何でもよいわけではない。投入する製品が「インライン」なのか「オフライン」なのかの違いを明確にした。

■メーカー初心者は「オフライン」

「インライン」とは、文字通り、お客さんの生産ラインに関わる分野。つまりインライン製品に何かあった場合、お客さんに迷惑がかかる。重大な責任と対応力も問われる。「オフライン」はその反対だ。

“ メーカー初心者” であった同社が参入するならオフラインの分野しかなかった。そうして開発したのが浮遊物・浮上油回収装置だった。

一般的に、工作機械による金属加工には切削液が不可欠。ただ、ワーク(加工対象物)表面には油が付着しているため、切削液を使い回していると徐々に油や金属くずなどの不純物が混ざり腐敗。加工精度に影響する。そこで必要になるのが浮遊物・浮上油回収装置だ。切削液中の不純物を掃除してクリーンな状態を保つのが役割だ。

同社は09 年7 月、「エコイット」のブランド名で第一号機を発売。鈴木社長らはチラシを片手に飛び込み営業に奔走した。が、年間を通じわずか10台しか売れなかったという。失敗を重ねる中で「要は“ 売り方”が大切だと気付きました」(鈴木社長)と振り返る。

自社製品「エコイット」を普及させるには、他社を巻き込まなくてはならない。そのため、全国にある機械商社や工具商社といった販売店への営業に切り替えた。もともと機械商社などは地域密着。その地元にある大手企業の工場などと取引があり、人間関係もできている。だが、数ある商材の中で、発売間もない「エコイット」を真剣に扱ってもらうためには差別化が必要だった。

■販売店への営業

同社が販売店に対し訴えたのは「エコイット」を商社マンたちの“ 営業ツール” として活用してもらうこと。「エコイット」は乗用車にも積めるコンパクトサイズ。これをお客さんの生産現場に持ち込み、工作機械の切削液をきれいにしてあげれば必ず感謝される。やがて別の商談にもつながる。「当社でも扱ってみたい」と手を挙げる販売店が増え始め、今では全国300 社ほどになった。

小さなメーカーが勝つ戦略。それはメーカー、売り手の双方がメリットを出せる仕組みを考えたことだった。

(2020年7月号掲載)