住まいの産業 / ライフサイエンス

「地域包括ケアシステム」を実践

医療法人啓和会(川崎市川崎区小田)は、医療と介護・福祉が連携した総合的なサービスを提供。小田エリアに診療所、訪問看護、訪問介護、デイサービス、グループホームなど約30もの拠点を展開する。厚生労働省が提唱する医療機関や介護事業者が連携する「地域包括ケアシステム」を単独法人として実践し、病気の予防から治療、高齢者の医療・介護そして看取りまで対応している。利用者は1日当たり700人に達し、地域の人々の生活の質(QOL)向上を目指している。

地域の人々のQOL向上追求

■連携の重要性

先代院長の故野末洋医師は、国立病院の整形外科部長を経て50歳で独立、1983年に小田で整形外科のクリニックを開業した。確かな技術と知識、そして気さくな人柄で町の人々から信頼されていた野末医師は、2000年の介護保険法スタートを前にスタッフにケアマネージャーの資格を取得させた。

本人も率先してケアマネの資格を取ったことで、当時は周囲が「なぜ医者が介護保険に?」と首をかしげたが、医療と介護を連携させる重要性を認識していたという。

啓和会は医療機関として整形外科から歯科、内科と診療科目を増やした。98年には医療保険で通所リハビリテーションを開業し、さらに介護保険制度開始の00年以降、訪問介護、デイサービス、グループホーム、小規模多機能ホームの施設を近隣に次々と開設。野末医師が目指す「地域包括ケアシステムの実現」を啓和会のスタッフがサポートし、娘の神山重子理事長は「新施設を作るたびに定款の変更と申請・認可が大変でした」と振り返る。

■シナジーを発揮

現在、啓和会の組織は「医療事業本部」と「介護事業本部」に分かれている。両本部の間には「医療介護連携室」が置かれ、病院を退院した人を在宅でケアするかグループホームに入居が必要かを検討するなど、医療と介護のシナジー効果を最大限引き出している。

スタッフには複数の資格取得が奨励されており、看護師がケアマネージャーの資格を持つなどシームレスな活動を展開する。実践的な人材を育成するため、専任講師を置き「啓和会メディカルカレッジ」も運営している。

■利用者の安心感も

医療と介護の連携は、法人経営の安定ももたらす。スタッフの定年は75歳で、残業はほとんどない。この余裕が優れた人材の定着と高いモチベーションにつながっている。スタッフと利用者のコミュニケーションが活発で、商店街にあるデイサービス拠点では近所の仲間が集まるような和やかな雰囲気で高齢者が向かいの八百屋が作るお弁当を食べている。

医療と連携しているという安心感から、グループホームで暮らし、そのままグループホームで看取られる利用者の比率が高い。上質なサービスは住民の啓和会への信頼を生み、5年前に86才で亡くなった野末医師の葬儀では教会に職員や仕事関係者200人以上が詰めかけたという。

(2023年11月号掲載)