警備業の優成サービス(海老名市国分南)が開発した「福祉バイオトイレカー」が全国から注目されている。同社の八木正志会長が10年ほど前、ものづくりをゼロから始め、手探りで開発した「走るトイレ」だ。以来、事業を諦めることなくコツコツと実績を重ねた結果、現在は東京五輪・パラリンピック会場での採用が検討されるまでに。東日本大震災や熊本、北海道地震では被災地支援でも活躍した。導入する自治体の負担が軽くなる国の緊急防災・減災事業債(国が7割を負担)の適用車両にもなり、一気に普及する可能性が出てきた。
警備現場からの需要を製品化
2019年9月の東京都・多摩市合同総合防災訓練に出展したところ、小池百合子知事が視察に訪れた。また、11月のローマ教皇(法王)の来日ミサでは、東京ドーム敷地内に、3台が設置された。
同社の福祉バイオトイレカーは排せつ物をおがくずで分解・処理。し尿処理は不要だ。
災害のみならず、イベント会場などでよく設置される簡易トイレは、車いすの障害者が利用できない。それに対し、同車両はリフトによる昇降が可能だ。
■「トイレは人の尊厳」
「排せつは個人の尊厳に関わります。障がい者の人も福祉バイオトイレカーがあれば、自分で用を足すことができます」と八木会長は語る。
もともと警備業が主力の同社。トイレのない作業現場で、泥だらけの足元でコンビニエンスストアのトイレを借りることへの申しわけなさから、八木会長が開発をしようと決めた。
とはいえ、トイレカーはクルマ。知識や技術もない中で、専門家からのアドバイスを受けながら試行錯誤を重ねた。そして2008年5月に1号車を完成させた。
■自治体の公用車にも採用
転機は東日本大震災。いてもたってもいられず、同車両を運転して被災地・石巻市へと向かった。
インフラが復旧していない被災地で必ず起こるのがトイレ問題。被災地では重宝され、実に1年7カ月もの間、現地支援を続けた。
だが、気付けば会社は大赤字。倒産の危機もあったという。
こうした紆余曲折があっても、2号車、3号車と地道に開発に打ち込み、ついには2016年6月、北海道苫小牧市が公用車として導入を決めた。
NEXCO中日本グループも現場で活用するようにもなり、各地のイベントでもレンタルの依頼が寄せられるようになった。
「ものづくりは、いきなりもうかるものではありません。見返りを求めず、まず人のために役立つことを考えることが大切です。おカネは後から付いてきます。継続は力なりです」と八木会長。歩みだして10年以上、花が咲きつつある。