製造アウトソーシング業の技研(藤沢市湘南台)は「人を大切にする経営」を進める。工場内での作業請け負いなど、生産から事務まで、お客さんからの業務委託を受ける企業。スタッフの離職が頻繁にあるとされる業界内にあって、入社5年後の定着率は8割以上を達成。尾川邦秋社長が従業員を徹底して大切にする姿勢が奏功している。
全ては「社長の自腹」
同社では月1回の面談のほか、正社員・パートを問わず社長との食事会、日帰りバス旅行、歓迎会といった社内イベントを2カ月に1度の割合で企画。これらの費用は、会社の経費ではなく、全て尾川社長の“自腹”という。「経費で従業員と食事をしたら、それはごちそうとは呼べません」と尾川社長はキッパリ。自身が毎月受け取る役員報酬のうち、実に3分の2以上を従業員のために費やす。お客さんとの飲み会やゴルフまでも全部自腹だ。
一方、年2回はオリジナリティーあふれる社内イベントも企画する。昨年はアメ横で「尾川社長探し」とするイベントを開催。どこかの店舗に隠れている尾川社長を発見した従業員には、その場で賞金3万円を出すというユニークな企画で、好評だったという。
■壮絶な人生
そんな尾川社長だが、実は壮絶な人生を歩んできた。幼い頃に両親を亡くし、親戚を転々とした。生活するのも大変で、14歳のときに単身大阪へ出て仕事を探した。それ以来、50以上の職に就いたという。最終的には湘南・藤沢に落ち着き、29歳で市役所職員になった。だが「枠にはまるような生き方をしたくなかった」と、潔く独立した。
しかし、会社が軌道に乗ってきた矢先、クルマの運転中、巻き込み事故に遭う。一命は取り留めたものの、後遺症が残り、長期の車椅子生活とリハビリを余儀なくされた。そして入院生活による社長不在により、当時設立していた別会社が継続を断念。それでも見事復活を果たし、今度は「技研」として再出発し、現在に至る。
■人で成り立つからこそ
「自分は周囲の人間に助けられてきました。だからこそ返したいのです」と尾川社長。ビジネスでは、人手不足で悩む中小企業に対し、得意の「業務委託」でサポート。“裏方”として支え続けている。
その内容は軽作業から数十人規模での装置組み立て作業など多種多様。頑張る従業員がいてこそ成り立つビジネスだ。だからこそ“自腹”にこだわるという。