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起業初年度から黒字 秘訣は経営者の「周囲を巻き込む力」

バリューアップデート(横浜市神奈川区松見町)の相澤隆志社長は2021年末に55歳でキヤノンを早期退職し、翌年12月に起業した。新会社が初年度から黒字を計上した背景には、長く携わったデジタル画像のソフト開発の力に加え、本人も知らなかった「周囲を巻き込む力」がある。

早期退職、システム開発受託

55歳は会社人生の先が見えてくる。相澤社長は子供が自立したこともあり、新たなチャレンジの道を選び、まず1年、フリーランスなどでシステム開発の仕事をした。

ネットで紹介された食品メーカーに通うと、大手企業の現場にはソフトウェアの分かる人が意外に少なかった。「『キヤノンにいました』と話すとけっこう信頼していただけました」(相澤社長)との経験から、システム受託開発事業に手応えを感じた。

早期退職して起業した人の多くは、営業活動に苦労する。対して相澤社長はフリーランスとしてIT関連の資格を取りに通った1カ月の研修でチャンスをつかんだ。ここで知り合った仲間から、出版社の仕事の流れをIT化する話が舞い込む。やがて、資本金100万円でバリューアップデートを設立した。

出版社の仕事の流れは独特。その社内業務支援システムを構築するため、得意分野が違うフリーランスのソフト技術者を集め、6人のチームで仕事を進めた。

相澤社長には、出会った人を巻き込んで仕事を進める才能があった。こうして新会社は初年度の23年11月期から利益を確保した。

しかし、2年目は若干の赤字となる。システム開発や自社製品開発の投資が先行したためだ。

最初の自社製品は、大量の動画データを自動的に分割・編集するソフト技術。資格を取るため研修動画を見た経験から、「余分なシーンが多くて見るのに時間がかかります。自分のために要約版を作るソフトを組んでみたら、なかなか良いものができました」という。

24年秋、相澤社長は試作したソフトを手にエレクトロニクス関連の展示会に出展、ブースに立ち来場者の反応を探った。やはり大量の動画の活用に困っている会社は多く、ここでも巻き込んだ来場者と話が進み、製品化が動き始めた。

同社は、自社製品はもちろん、受託開発システムでも技術の根幹部分は権利を保有し、他の販売先へ横展開する。「個人商店で終わらせず、人を雇用して会社を成長させたいですね」

3年目の25年11月期には投資が実り、前年度比3倍の売上高を見込んでいる。

(2025年6月掲載)