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本物のワインを低価格で 街の酒店、父子のこだわりとは

一力酒店(横浜市保土ヶ谷区境木本町)は創業56年、主人の原甲二さんのワインを見る目が信頼され、商店街の小さな酒屋でありながら全国から注文が舞い込む。ワインだけでなく、扱う商品は焼酎もみそもしょうゆも本物。料理人として腕を磨いた二代目・正樹さんも店に戻り、2024年6月には本格派の料理をテイクアウトできるコーナーを併設した。

逸品を研究、惣菜コーナーも

甲二さんは酒屋での奉公を経て1969年に独立。店舗の立地や価格設定など規制が多かった当時の酒販店経営に疑問を持ち、主力のビール販売をやめてワインの研究にのめり込んだ。

きっかけは、過剰な酸化防止剤などを使わないナチュラルワインのおいしさを知ったこと。以来、80年代に自らドイツやフランスのワイナリーを回って研究を重ねてきた。

店のワインには手書きの解説メモがつく。

「ブルゴーニュ地方のマルサネという小さな村はワイン産地として知られていませんが、この地のシャルルオードワン家は息子のシリルが手伝うようになっておいしいワインを造るようになりました。イチゴのような香りがあり口当たりがソフトでフレッシュな酸味が心地よいワインです」というワインが5000円クラスだ。

店の主力は1000~2000円クラス。ワイン好きな庶民に手の届く価格帯で、最良のワインを並べている。1万円を超える“宝物”は少しだけ在庫して寝かせてある。

息子の正樹さんは、ワインを突き詰める父を見て10年ほど前に店に戻ってきた。さらに料理人としての20年の経験を生かすため、国の補助金と新たな借り入れにより総菜事業「ごちそうやichiriki」を始めた。

倉庫だったスペースを改装。ワインに合うペンネや肉料理だけでなく、お昼のおにぎりやおかずも人気。唐揚げは国産鶏と合成油を混ぜない純粋ななたね油で揚げ、シュウマイは手で包んでいる。

価格は3種類買って1000円くらいという「手頃なぜいたく」。ワインと同じく「混ざり物のないおいしさを提供したいですね」(正樹さん)という、よく似た父と息子を、母と妻が支えるすてきなお店だ。

お店は火曜日が定休、ここで仕込んだ総菜を木・金・土曜日に販売する。

(2025年5月掲載)