ラーメン通の間で伝説のように語られる「カネシ」という名のしょうゆがある。1970年代に使った店が超有名ラーメン店に成長したことでブランド化し、現在はうまいラーメン屋を目指す全国の独立系店主から注文が集まる。ネットには「カネシの謎」の記事が並び、時には容器のラベルを見たマニアが訪ねてくるのがカネシ商事(川崎市中原区中丸子)だ。
採用店舗は全国170軒以上
カネシ商事の堀江昇会長は、1971年に30歳でしょうゆの卸売業を始めた。証券会社の飛び込み営業マンとして実績を上げていたが「人生に成功のコツや近道はなく、小さな努力の積み重ねが大事。実家近くのしょうゆ屋を見て、食生活に欠かせないしょうゆは流行の波がなく、続ければ大きくなると思いました」と振り返る。
首都圏のラーメン店を回っては門前払いされる創業間もないある日、店主自ら皿洗いをしていた東京の店が、同社の扱うしょうゆとみりんを使ってくれた。現在は誰もが知る有名店となったこの店との取引はないが、「カネシしょうゆ」のラベルを作り商標登録したことでブランドを確立。この店から独立した人々の店や、味に触発された若い店主の「インスパイア系」と呼ばれるラーメン店に販売先が拡大していった。
こうして特定メーカーの販売機能をすべて請け負った業態で、個人事業主として24時間365日休みなく、自らトラックで配達する生活を続けたという。
「堀江家の電話は鳴りっぱなし。注文を受ける母は限界でしたね」と振り返る次女の堀江麻美子社長が、父を説得して2017年に法人化。社長として父を支え、受注には外部のコールセンターを使い、全国に広がった配送は大手運送会社に委託した。