後継者難は中小企業に共通の悩みだが、偶然の機会が解決策を導くこともある。シルク印刷と工業彫刻の浜工芸(横浜市港北区新吉田町)は、懇親の席をきっかけにした出会いで得た後継者とともに、次世代への継承に注力する。最新鋭の設備も導入しながら、大手メーカーとの取引で培ってきた品質への「徹底的なこだわりを、当たり前に」に挑む。
「跡取りがいない」…出会い
半導体製造装置や検査装置の銘板、鉄道や交通信号の操作盤プレートなど、多岐にわたる製品を手掛ける。1988年10月の設立以来、山形尚之社長(68)がプレイングマネジャーとして会社を引っ張ってきた。
50代の時に転機があった。「ある関係者から、うち(当社)は『跡取りがいない』と言われ、嫌がらせをされました。そして元請けから『跡継ぎがいない会社には仕事を出せない。別の会社に切り替える』と切られたこともありました」
後継者はいない。一代で会社をたたむのか、それとも新たな道を考えるのか。「M&Aという選択肢もありましたが、お客さんとの長年の信頼関係を考えると、単純に売却するだけでは申し訳ないと感じました」
ある日、知人との飲みの席で、事業継続が話題に上った。「こんなに良いお客さんがついているのに、一代で終わらせるのはもったいない」。その言葉に心を動かされた。
折しも、その知人には、IT業界からの別の仕事への転職を考えている息子がいた。彼に「一度、工場を見に来ないか」と声をかけると、「ぜひやりたい」。こうして約6年前、後継者となる春藤勇樹さんが加わった。
取引先は70〜80社に上るが、依存率が20%を超える企業はないという。かつて松下通信工業(現・パナソニック)と直取引を行っていた時期に求められた厳格な品質管理が、現在も企業文化として根付く。従業員全員が「ハンドルーペ(拡大鏡)」を携帯し、細部まで品質を確認する習慣がある。