障害者の生活機能を向上させるテクノロジーを開発する「アシスティブ・テクノロジー」。その分野で研さんを積む企業がある。川崎市に隣接する東京都稲城市にあるテクノツールだ。脊髄損傷や脳性まひ、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)...。重度肢体不自由でもパソコンなどが操作できる入力デバイスを開発、販売する。さまざまなデジタルツールが普及する現在、すべての人がその恩恵を受けているかと言えば、そうではない。たとえ大きな可能性を秘めていても、障害があって機器が操作できないために断念する人もいる。こうした壁を破るのがテクノロジーの力だ。島田真太郎社長は「テクノロジーをしっかりと使えば、障害があってもやりたいことができるようになります」と話しており、日々開発に打ち込む。
入力デバイス開発で未来を創造
■アシスティブ・テクノロジー
1994年12月に設立。アシスティブ・テクノロジーの研究開発を手掛ける。主力製品となる入力デバイスは、個人個人で異なる障害の種類や程度によって使えるよう、数多くのモデルをラインアップする。
例えば、口にくわえて動かすマウスや装着型のマウス、ジョイスティック、アームサポート、点字文書作成ソフト...。オリジナル商品だけで実に30種類を扱う。
並行するのが輸入事業。「欧米やイスラエルなどではアシスティブ・テクノロジーが進んでいます」(島田社長)と言うように、日本以上に多様なデバイスがそろう。
すべてのジャンルで一点一点を自社開発していたら、そのコストは膨大になる。そのため、先進諸国からこうした製品を輸入し、商品構成に追加することで「提案できる商品の幅が広がります」と言う。
2020年にはホリ(横浜市都筑区)が開発したNintendo Switch公式の障害者向けコントローラー「Flex Controller」の監修を担当。現在、販売を担っており、海外にも輸出している。
■ドローンプロジェクト
22年5月、同社が一躍脚光を浴びることになる。
障害者向けサービス研究開発のシアン(東京都千代田区)、筋ジストロフィー患者で「寝たきり」である梶山紘平氏と共同で、無人航空機にあたる機体200グラム以上のドローンを飛行させることに成功した「ドローンアクセシビリティプロジェクト」だ。
梶山氏は、テクノツールが用意したデバイスを駆使し、わずかに動かせるほほや目(眼球運動)を使ってドローンをコントロールしてみせた。
また、同年10月にはトヨタ・モビリティ基金の支援を受け、頸椎(けいつい)損傷の大けがをした元F3ドライバーの長屋宏和さんが、同社のさまざまなデバイスを使ってレーシングシミュレーターに挑戦した。
「入力デバイスを工夫すれば高度なことができます」と力説する島田社長。見据えているのは、障害があっても、ドローンや農業用ロボットなどを遠隔操作できるようにする社会の到来だ。新たな雇用創出や、日本社会全体に渦巻く人手不足問題の解消にもつなげていく。
■新たな挑戦
パーソル総合研究所と中央大学がまとめた「労働市場の未来推計2030」によると、日本全体の人手不足は2030年に644万人に上る見通し。その一方で、障害者の活躍の場が広がっていないという現実がある。その溝を埋めるカギになるのがアシスティブ・テクノロジーの普及になる。
新たな事業の柱の一つにしようとしているのが就労支援事業。今夏をめどに川崎市内に多機能型事業所の設立を計画する。
「重度肢体不自由者や障害者たちが輝ける場を作るのと同時に、企業側のニーズや、それをくみ取った装置の開発につなげるのも狙いです」と明かす。
事業所では、同社のさまざまな入力デバイスを駆使しながら、企業からの仕事を受けていく。
例えば、同社の社員には、肢体不自由者でありながら、製品・ツールのコードを書くことができる人がいたり、文章を書くのが得意な人がいたりする。「得意分野で、ものすごいパフォーマンスを発揮する障害者も少なくありません」としており、AI(人工知能)開発支援や文章編集などの業務も想定する。
障害を持っていても、自身の能力を最大限発揮し、自己実現できる社会に向け、同社は走り続けている。