住まいの産業 / ライフサイエンス

建具一筋、商売は「情熱と努力」

長井興業住宅資材(川崎市宮前区犬蔵)は60年余、建具一筋だ。その守備範囲は広く、一般住宅から歴史的建造物の保存修理までと、オールラウンドでこなす。その腕は折り紙付きで、2018年にリニューアルした国の重要文化財・旧東京音楽学校(現・東京藝術大学)奏楽堂に携わったほか、浜離宮、そして皇居…。歴史的、文化的価値がある建造物などで、難易度が高い建具工事では、決まってお呼びがかかる存在だ。そんな同社は、一人親方が多くを占める業界にあっては珍しく、職人と営業を線引きした分業制を採用。今でも第一線で活躍する中里角次郎会長の情熱と、優秀な職人が安心して働ける環境を整備することで成長を続ける。

60年余の経験で重要文化財も

■内装の世界で「一番重要」

1956(昭和31)年に東京・大田区で設立された長井建具店が原点。83年5月に長井興業住宅資材として再出発して以来、川崎を地盤とする。今ではオーダーメード建具の設計から製造までをこなす。

建具とは、開口部に設けられた障子や襖(ふすま)、窓、ドアといった可動部分、それを支える枠などの総称を指す。中里会長からバトンを渡されつつある小林彰社長は「住宅の内装で、建具は一番重要な部分と言っても過言ではありません」と断言する。

社員6人、協力職人6人の陣容ながらも、年間340件以上の仕事を受ける。障子1枚から始まり、マンション1棟分や、国の重要文化財のプロジェクトなど、内容はさまざまだ。

同社の場合、職人と営業の業務を完全に切り離している。製造業で言う「多能工」とは別の考えだ。お客さんとのやりとりは、職人ではなく営業がすべて担当する。営業を介すことで、お客さんの意向を的確に伝えるためでもある。職人も本業に集中できる。

営業人材は、異業種からの中途を積極的に受け入れる。「異業種人材は、これまでとは違った目線でものを見て、提案することができます」と言う小林社長もホテル業界出身という。

■原理原則守る

協力職人(個人事業主)への“保証”も手厚い。万が一事故が起こった時の保険も、同社が面倒を見ることで安心感を持ってもらう。また、先々の発注が途切れないよう、絶えず仕事を依頼しているという。これにより、腕利きの職人たちを囲い込んでいる。

とはいえ、事業を継続、発展させるための「王道はない」と小林社長は強調する。創業以来、社是として
▽責任ある施工
▽迅速なサービス
▽丁寧な仕事
▽礼儀正しく
▽製品を大切に
といった5つを掲げる。「これらを原理原則として忠実に守り、愚直に商売をする以外にありません」(小林社長)と力を込める。さらに「うまくいくコツや秘訣はありません。あるとすれば、情熱と、たゆまぬ努力以外にないと思っています」とも付け加える。

業種を問わず、あらゆる商売に共通することかもしれない。

(2022年12月号掲載)