DX(デジタル・トランスフォーメーション)に対する機運がかつてないほどの高まりを見せる中、チームシロッコ(川崎市多摩区中野島)の「育てるIT」が注目されている。事業にかかわるシステム開発の分野で、決められた期日までに“完成品”として納品するのではなく、ビジネスモデルや環境の変化とともに、設計変更に柔軟に対応できるよう、段階的に作り上げていく「アジャイル開発」を採用したものだ。「育てるIT」を提唱する谷口有近社長は、かつてマイクロソフトから計5回のMVPを受けたことがある。しかもクラウドサービスの日本展開時にはシステムの問題を発見、解決につなげたとして本国から感謝状をもらった指折りの技術者だ。
アジャイル開発を採用
JR南武線・中野島駅近くの古民家を改装した「エンガワオフィス」に本社を置く。別事業として台湾茶の通販事業も展開する。
谷口社長を入れても社員数は2人。それでも、システム開発の取引先は大手企業ばかり。政府系の情報処理推進機構や野村総合研究所、中央電力…。名だたる企業の業務システムを請け負う。無論、中小企業もターゲットだ。
「(中小企業の)既存事業にITを組み合わることで、可能性を広げるお手伝いをするのがミッションでもあります」と谷口社長は語る。
現在、政府や自治体は、中小企業のDX化を後押ししており、経営者たちの関心も高まっている。その中で、谷口社長は持論を展開する。
「大手がやっているDXの手法が、必ずしも中小に当てはまるとは限りません。使い方が分からず、逆効果になることもあります」と指摘。さらに「情報セキュリティーを甘くしてしまうと、以前、中小企業間でホームページ開設が広まった時代に起こった問題を繰り返すことにもなります」と付け加える。
大切なのは、DXによってできること、できないことは何か。デジタルリスクは何か。これらのバランスを考えながら開発することだという。
■システム導入は「設備」とは違う
そんな同社が中小向けにも提案するのが「アジャイル開発」の手法だ。
通常、ソフトウエアやシステム構築を専門家に委託する場合、最初に全体の機能設計・計画を決め、その計画に従って開発・実装していく手法が用いられる。
それに対し、アジャイル開発は、優先度が高い順などタスクを「小さな単位」に分け、それぞれ実装とテストを繰り返しながらプロジェクトを進める。
「最初から全部を決めません。理想像を決めて、ステップ1、2、3と考えてやっていくやり方です」(谷口社長)と説明する。
というのも、最初から膨大な費用を投じシステムを完成、運用したとしても、時間の流れが早いITの世界では、年月の経過とともに言語が古くなり、新しいウイルスにも対処できなくなるからだ。
「システムは、製造業でいう設備導入とは違います。一度入れたらその機械がそのまま10、20年使えるものではありません」と、アジャイル開発の必要性を説く。
まして事業構造やビジネスモデルの変化が求められる中小企業の場合、システムも合わせていかなければならない。だからこそ、中小企業には「育てるIT」を訴求しているという。
DX化の流れが加速する中で、同社の存在感はますます高まっていきそうだ。