相和シボリ工業(川崎市高津区新作)は、金属加工業の中でも事業領域を「へら絞り」に特化したことで、他社が追いつけないほどのオンリーワンの技術力を発揮する。ステンレスやアルミといった一般材料のみならず、希少金属とされるモリブデンやインコネル、それにチタンといった「難加工材」にも対応する。板厚2mmのアルミ材料を深さ560mmに絞れるほどの腕を持っており、同じ金属加工業者から寄せられる、へら絞り工程の依頼を一手に引き受けている。
レアメタルや難加工材も「絞る」
へら絞りは、1枚の金属板をロクロのように回転させ、棒状のへら(金型)を押し当てて円柱状に成形していく技術。広く普及するプレス加工では二つの金型が必要になるが、へら絞りは一つで済む。「初期投資が少なく、形状変更にも柔軟に対応できます」と大浪友和社長は説明する。
身近なものでは、照明用反射板や屋外に設置される時計の枠などにも、へら絞りが活用される。産業用では半導体製造装置の構成部品などにも採用される。ただ、熟練の職人でないと成形が難しい上、技術を受け継ぐ職人の数も少なくなっているのが実情だ。
同社はへら絞り一筋で約40年。地元・川崎市から「かわさきマイスター」として認定された父・大浪忠会長と、技術を継承した大浪社長がタッグを組み、金型製作から成形までを一貫して請け負う。熟練技術に加え、量産品には自動絞り機を活用することで品質の安定化を図っている。
同社の特徴の一つが、仕上がりの美しさ。通常は、ワーク(加工対象物)を固定してへら絞りをする中で、どうしても金属表面に傷や跡が残ってしまう。しかし、同社の製品にはそれがない。金型や油、加工法を工夫することで可能になるという。
また、材料支給の段階から傷があるものにはヘアライン研磨を施し、傷を目立たなくすることもある。
■1秒単位のカイゼン
量産も工夫する。現場では生産装置の隅にストップウォッチを常に置き、1個のへら絞りが完成するまでのリードタイムを1秒単位でカイゼンしている。「1個当たり1秒縮まれば、1000個の量産で1000秒削減できます」と大浪社長。
取引先は約30社。少量多品種から量産まで、年間数千種類の部品を手掛けている。
金属加工業界では、機械加工や精密板金、塗装など、あらゆる工程を一括受注し、協力業者に振り分けていく企業が少なくない。その点、同社はへら絞り1本で勝負し、技術を研鑽(けんさん)していったことが、かえって差別化につながったという。
2012年7月から順次商品化しているのが、へら絞りで製作したオリジナルのタンブラー。現在「あいわしぼり」と「Onami」、漆を塗った「金胎麗漆」、廃材を活用した「Re-shibo(リシボ)」の計4ブランド50種類を展開。価格は税別3000円~ 3万円台までラインアップしている。
中でも「金胎麗漆」は、鏡面磨きの卓越企業や漆工芸家とコラボ。タンブラー内部を鏡面磨き、表面は漆塗りを施した贈答用の高級品だ。
自社商品開発から約10年。地道に続けており、オリジナルタンブラー全体で累計3000個を販売した。「やり続けることで信頼獲得にもつながります」(大浪社長)。
今後はへら絞りの新たな可能性を探ろうと、キャンプ用品やペット関連用品の開発にもチャレンジしたい考えだ。