たかがラーメン。されどラーメン─。競争がし烈なラーメン業界で、20年以上、人気店の地位を保ち続ける店がある。SANTA CALA(サンタカラ、厚木市幸町)が運営する「麺や食堂」だ。川の流れのように麺を美しく盛り付ける「麺線」を、業界でも初めて採用した店として知られ、大手グルメサイトでも6年連続でベストラーメン賞を受賞する。今や国民食と言えるラーメンだが、有名店が群雄割拠し、ブームの移り変わりも早い。そんな中で人気店であり続けられる秘密は、味もさることながら、時代やブームに流されない「原理原則」にあるという。
麺や食堂、激戦のラーメン業界で人気根強く
■「悔しさ」が原点
同店が提供するラーメンは、あっさりの「淡麗系」と呼ばれる。「ラーメンはだしで食べさせるもの」(望月貴史社長)という考えから、中毒性を持たせる化学調味料は一切使っていないのが特徴だ。
もともとは70年ほど前、望月社長の祖父が営んでいた「喫茶ブラジル」に由来する。やがて「食堂ブラジル」となり、バブル崩壊後に望月社長も手伝うことになる。
ただ、黙っていてもお客さんが入ってきた高度成長期やバブル期とは明らかに異なった。働いても働いても、もうからない。周囲を見渡せば、社会人になった同級生たちは結婚し、マイホームも手にしていた。
それに対し、自分は住宅ローンを組むのにもハードルが高い。1年間給料が出ないこともあった。「今思えば、この時の悔しさが原点ですね」と振り返る。
バブル期を知る父とは何度も衝突した。それでも、望月社長は再建するためにラーメン1本でやっていくことを決意する。とはいえ、ラーメンの修業経験はない。独学で身に付けようとした。
■特化すれば大きな強み
当時、テレビ東京が放映していた人気番組「愛の貧乏脱出大作戦」も、立派な教材となった。同番組は、営業不振の飲食店主らが、その道の「達人」に厳しい指導を受けながら再出発を目指すドキュメンタリータッチの番組だ。「毎回録画して、自分が達人から教えを受けているような気持ちで、正座して見ていました」。
試行錯誤の末に見いだしたのが、「麺線」。一つでも何かに特化すれば、それが大きな強みになるということ。「ラーメンは料理」という考えで、麺線できれいに見せることは、当時どの店もやっていなかった。これが話題を呼んだ。
同店はお客さんが食べ終えて退店する際、スタッフが必ずお見送りをする。笑顔も絶やさず、皆元気だ。
「単に、お腹を満たすだけの店ならたくさんあります。しかし、心も満たせる店となると少ないです。自分たちは飲食業ではなく『サービス業』だと考えると、できることはたくさんあります。ディズニーランドは、キャストの思いが伝わっているからこそ、お客さまは笑顔で帰っていくのです。ラーメン屋でも同じことができます」。
■作業ではなく「仕事」を
スタッフに思いを共有してもらうためには、トップ自らが心を込めた接客をして「背中を見せる」だけでなく、どんな仕事にも原理原則があるという考えを定着させることだ。
例えば、雑巾がけ。四角いテーブルを四角く拭くのにも、れっきとした理由がある。「細かな仕事にも必ず意味があります。そのため、疑問があればすぐに聞いてほしいと言っています。意味が分からず、考えないでやるのは単なる『作業』です。モチベーションも上がりません」と説く。
各店がしのぎを削るラーメン業界。その中でも差別化できた最大の理由について望月社長は「他店と比較をせず、自分たちなりの原理原則を持って、それを追求しただけです」と強調する。
現在は「麺や食堂」のみならず、餃子専門店や唐揚げ専門店などにも進出。計10店舗以上を展開するようになった。ただ、業態は変わっても、「麺や食堂」と同じスタンスで店舗運営に臨んでいる。